世界初「カメラ内蔵テレビ」を生んだひらめき
2010年、阪井さんは世界初カメラ内蔵テレビ「BRAVIA LX-900」を開発した。
「当時まだ幼かった娘が、テレビに好きなキャラクターが登場するたびに画面を触りに行くようになったんです。そこで、子どもがテレビの1メートル以内に入るとカメラが検出し、画面がぼやけるというインタラクションを入れました。離れるとクリアな画面に戻ります。子どもが自然とテレビに近づかなくなる仕掛けです」
普通なら「近づいてはダメ」と叱ったり、「離れて見てね」と表示したりするだろうところを、「ぼかす」という発想が面白い。これは「窓」にも応用されている。
「『窓』は、相手がカーテンを閉めると、出窓のように表現されたUIの向こう側がぼやけます。僕らの意識の中にある感覚を使い、『今カーテンを閉じています』と表示せずとも伝わるようにしているのです」
人間は、つながりを求めながらも、プライバシーやパーソナルスペースを守りたいと考える。家族でも干渉されると居心地が悪かったりするし、満員電車で「人がそばにいてほっとする」と感じる人はまれだろう。「大事なのは、心地良い距離感をデザインすることです」(阪井さん)