FOLIOの別解

甲斐 われわれの事業における別解の現れを紹介します。わかりにくいんですけど、従来型の資産運用系のシステム構成というのは、サービスのフロントエンドがあって、裏側には口座の管理とか税金計算するバックオフィスシステムがあります。金融商品を売買したりするロボアドバイザーの運用基盤はその間にあるイメージだと思ってください。

このロボアドバイザーの運用基盤というのは通常、フロントエンドとバックオフィスのシステムとは全て密結合で作られています。全てがパッケージ化されているイメージです。密結合でシステムが作られているので、当然ですが運用の基盤だけを切り離して、他の会社に提供するということはできない。なので、ほかの会社さんとの提携関係は、基本的に送客をしてもらって、収益を折半するという連携の仕方が通常のケースになります。

一方で、うちの会社は、ロボアドバイザーの運用基盤をフロントエンドとバックオフィスシステムと完全に切り離して作っている。一つ一つのシステムをマイクロサービス化をして、疎結合で作っているんです。そうすると、何ができるようになったかというと、例えばSBI証券にロボアドバイザーの運用基盤部分だけを切り離して、もともとFOLIOの基盤だったものをSaaSとして提供するということが可能になった。

証券会社や地銀の既存のバックオフィスシステムとデータ連携するだけで、既存の証券口座、銀行口座そのまま使って、ロボアドバイザーのサービスが提供できるようになるので、自社内部のサービスとしてロボアドバイザーやりたい金融機関としては非常に嬉しい仕組みになっています。今までだと、他の会社へ送客する形でしか提供できなかった運用サービスが自分たちで始められるようになるんですよね。

FOLIOとしては、自社のロボアドバイザーを広げつつも、新たにどんどん参入してくる大手金融機関や地域金融機関の人たちには運用システムの提供者として協業する。全方位で資産運用領域に貢献していくという「両手」の戦略になっています。

平尾 時代背景的にいけるとおもったのか、そこまで考えてなくて、「こっちのほうが伸びる」と思っていたのか、どうなんですか。

甲斐 結論としては、両方ですね。時代の流れも後押ししてますし、送客型モデルの課題も徐々に顕在化してきていたんです。

従来自社のロボアドバイザーサービスを広げていくやり方は、宣伝広告を打って自社へお客さんを獲得するやり方と、他社とレベニューシェアモデルで送客連携をするやり方しかなかった。しかしそんな中で、他社との送客型モデルはなかなか伸びないという課題が見えてきていた。なぜかというと、お客さん目線では、他の会社に改めて口座開設をして、入金をしなければならないので、非常に面倒くさい。UXの問題ですね。また送客型は自分たちの経済圏から、預かり残高が外に抜けてしまうので、アグレッシブな営業も難しい。もちろん、送客型でも伸びている連携もあると聞いていますが、往々にして聞くのは、なかなか数字が伸びないという声でした。

さらに、今日本の金融機関の多くがロボアドバイザー含む、アドバイザリー型資産運用の領域に参入してきている状況。つまり、自社内製のニーズがどんどん上がってきている。

普通に考えると、競争激化の環境で、孤軍奮闘という形に陥る状況ですが、競争環境の激化を別解することで、大手が新たに参入する領域だと理解し、システムの作り方をかなり工夫し、通常であれば競合関係になるような金融機関を、協業相手として捉えることができるようになったんですね。

平尾 面白いですね。

甲斐 僕らはマイクロサービス化して運用システムを作ったというのは、実はLINEさんとの協業形態の中で、お客さんのニーズに応えるために作った経緯があったのですが、改めて顧客価値提供のあり方を考え直した結果、現在はB向けシステム提供のSaaS事業が非常に強い伸びを示しています。

甲斐真一郎(かい・しんいちろう)

株式会社FOLIO Founder&代表取締役CEO

京都大学在学中、1年半ほどプロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券に入社し、日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券同部署に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。2015年11月にバークレイズ証券を退職し、12月に株式会社FOLIOを創業。