コロナ禍や自粛生活などの「環境の変化」により、多くの人が将来への不安を抱え、「大きなストレス」を感じています。
ストレスを溜め込みすぎると、体調を崩したり、うつなどのメンタル疾患に陥ってしまいます。コロナ禍にベストセラーとなった樺沢紫苑氏の著書『ストレスフリー超大全』では、ストレスフリーに生きる方法を、「科学的なファクト」と「今すぐできるToDo」で紹介した。
「アドバイスを聞いてラクになった!」「今すべきことがわかった!」と、YouTubeでも大反響を集める樺沢氏。そのストレスフリーの本質に迫るーー。(初出:2020年7月18日)

「50人に1人」が1年以内に自殺未遂

日本財団の「自殺意識調査2016」によると、「本気で自殺したいと考えたことがある」に対して「ある」と答えた人が、25.4%でした。

また、自殺を考えた時期についての質問では、「過去1年以内」が3.4%、「いま現在」という人が、1.6%もいました。つまり、4人に1人は、本気で自殺したいと考えたことがあり、約60人に1人は、今、この瞬間「死にたい」と考えているわけです。

「死にたい」という感情は、極めて追い詰められ、差し迫った特別な感情のように思えますが、多くの人が抱えている共通の悩みでもあるのです。

また、同調査を元に「過去1年以内の自殺未遂経験者」を推計したところ、日本全体で53万5000人と推定されました。日本人の約2%、50人に1人が、1年以内に自殺未遂をしている計算です。

「死にたい」と思う人、実際に自殺企図として行動を起こしている人が、私たちの想像を超える多さで存在しているのです。

あのとき、どうしていたら、
死を防げただろうか…

精神科医をしていると、患者さんから「死にたいです」と相談されることがよくあります。それに対して、「どのような言葉をかけてあげると、患者さんは自殺を思いとどまってくれるのだろうか」と思いながら、25年以上、精神科医を続けています。「最適な声がけ」「最適な言葉」というものを、常に考え続けています。

また、私のYouTubeでの悩み相談にも、「死にたいです」という相談が、たくさん寄せられています。それに対して、どのように答えればいいのか。

これまで、「死にたい」「自殺したい」と言う人に向けて執筆活動をしたり、動画を発信したりしていますが、なかなかベストなアドバイスには至りません。

そうした試行錯誤の中で、今、「死にたいです」と相談された場合、私がかけられる言葉は、この言葉しかないと思っています。

「死なないでほしい」

アドバイスでも助言でもなく、ただの個人的な希望・願望に聞こえるかもしれませんが、まったくそのとおりです。

今、この文章を読んでいるあなたは、私とは一度も会ったことがないかもしれません。しかし、私の本を手にしていたり、私の動画を見たことがあれば、「小さなつながり」はあります。そうやってつながったあなたが、自殺し、亡くなってしまったとしたら、それはとても悲しいことです。

なぜそんなふうに思うのか。それは、今までに、何人も自殺した人を見てきたからです

患者さんの立場からすると、「自分が自殺しても、医者は悲しみもしないし、なんとも思わない」と言うかもしれませんが、それは間違いです。

自分の患者が亡くなって悲しまない精神科医はいません。自分の患者が自殺した場合、「あのとき、どうしていたら、自殺を防げただろうか」「最後の診察のとき、どんな対応をしていればよかったのだろうか」「自殺したのは担当医であった自分の責任ではないのか」と考えをめぐらせます。それでも、患者さんが生きて戻ることはありません。

死にたい…と語る患者に精神科医がかけてあげる「ある言葉」【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

精神科医としての個人的な体験

私が担当した患者さんに、Yさんという女性の方がいました。パーソナリティ障害の診断で、とにかく「死にたい」が口グセでした。本当に苦しいときは、入院してもらい、何とかやり過ごしていました。私が担当した2年間は自殺未遂もなく、比較的、うまくいっていたように見えました。

その後、私は転勤となり、別の病院に異動することになりました。Yさんは別の先生へと、引き継がれました。

それから半年ほどしたある日。朝、新聞を読んでいると、Yさんが近くの川で入水自殺をして亡くなったという記事が載っていました。普段は新聞を細かく読むほうではないし目立たない場所の10行ほどのベタ記事でしたが、導かれたかのように目にしたのです。

主治医を交代して半年が経っていたので、最近の病状は知りませんでしたが、私が2年間治療していた事実は変わりません。その治療で、彼女の「死にたい」という本質的な部分に対して、影響を与えられなかったという「無力感」にとらわれました。そのときに私が率直に思ったのが、「死なないでほしかった」。ただ、それだけです。

私は転勤する前にYさんからプレゼントをいただきました。フックの部分が動物の顔になった「洋服掛け」です。今も本棚の隅に置いてあります。それは、私にとって十字架のようなもので、それを見るたびに、自殺したYさんの顔が思い出されます。そして、思うのです。

「絶対に二度と、自分が関わる人に『自殺』など起こさない。
日本人の自殺者を1人でも減らしていく」

そんな思いから、私はYouTubeでの情報発信や執筆活動を行っています。

自殺を1人でも減らすためには、メンタル疾患の患者を減らす必要があります。それでメンタル疾患の治療だけではなく、「予防」に重きを置いた発信をしています。

メンタル疾患予防のためには、人間関係を改善したり、仕事を効率化したり、健康やメンタルについての知識を得て、ストレスを減らすことです

本や動画によって、「自殺を思いとどまりました」「救われました」というメールがときどき来ます。この活動を続けながら、「死にたい」という人に出会ったとき、私が言えることは「死なないでほしい」という一言。それ以外に言えることはありません。

樺沢紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医、作家
1965年、札幌生まれ。1991年、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、樺沢心理学研究所を設立。「情報発信を通してメンタル疾患、自殺を予防する」をビジョンとし、YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動している。25万部を突破した『精神科医が教える ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社)など、30冊以上の著書がある。

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