デザインのパワーを前向きに生かす
戦時下の事例を見ていくと、デザインがいかに人の心を動かすかがよく分かります。本書は、それらを教訓にして「だまされるな」「気を付けろ」と警鐘を鳴らしています。ただし、著者は何度も「デザインに罪はない」「正も負も善悪もない」「利用する人間、状況の問題である」とも説いています。つまり、この大きなパワーは、前向きに使うこともできるのです。そんな視点で読めば、ビジネスパーソンにとって参考になる点は多いと思います。
例えば「色」。企業ロゴなどに使われる「コーポレートカラー」は、企業のブランド戦略の重要な要素です。商談のとき、取引先のコーポレートカラーを意識して書類を作ったり、小物や服装に取り入れたり、オンライン会議の背景に使ったり……。ちょっと意識するだけで、取引先に好感を持ってもらえる可能性につながります。
ブックマーケターとして、本の「売り方」と日々格闘している私は、「戦争とことば」の章をとても興味深く読みました。本を印象づけるデザインには、装丁、広告、POP……などさまざまなものがありますが、どのデザインにおいても、読者の目を引き、心を動かすための重要な要素は「ことば」だからです。
出版業界には「オビ替え」というマーケティング手法があります。本を出版した後、市場の反応を見ながらブックカバーやオビのデザインを変えていくのです。ここでも、読者や書店員の「ことば」を盛り込む手法がよく使われます。「泣けた!」「鳥肌が立った!」といった、心の動きを示す「ことば」を効果的にデザインすることで売り上げが急上昇することも。「デザイン」がプラスの力を発揮した例といえるでしょう。
「デザイン」が、戦争という極限状態で磨かれ、成長してきたこと、そして、使い方次第で鋭利な刃物になることは心に刻み込まなければなりません。だからこそ、これからは、社会をより良くするビジネスを通して、デザインを磨き上げ、人の心に響く商品やサービスを生み出していくことに力を注ぐべきでしょう。「デザインの平和利用」に貢献したい――。読後、そんな思いを新たにしました。