変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。

【イノベーションが起きない組織】は「報酬の支払い方」を間違えているPhoto: Adobe Stock

時代遅れになっている日本の大企業の報酬制度

 日本の大企業の報酬制度は、高度成長期に設計されています。それは企業が成長し続けることが前提となっていますので、ポストが増えて、一人当たりの給与も年々増えるように設計されています。

 しかし、バブル崩壊後は日本経済が停滞し、日本企業の在り方も大きく変わりました。日本の大企業では年収2000万円を得ている窓際族はWindows 2000と呼ばれているそうですが、情報の伝達以上の価値を生み出せない管理職の多くは、早晩役割がなくなるでしょう。

 過去の連載で解説したとおり、今後はヨコの関係で成り立つ共創型のチームが中心の世界へと変わります。誰かのために働き、その対価をもらうという働き方は、これからどんどんなくなっていきます。

 デジタル化とグローバル化が進展した社会では、日本だけ鎖国を続けて制度を維持していくことはできません。アジャイル仕事術を身につけて、世界中のどこにいても貢献して、報酬を得ていけるようになることが重要になります。

 ここでは、共創型のチームを運営していくに際して、いかにして報酬をみんなで公平に分け合うべきかについて考えてみましょう。

終身雇用による後払いは、通用しなくなる

 終身雇用制度では、長く勤めることで給与が増加し、定年まで勤め上げれば、退職時には退職金が支払われます。

 終身雇用は経済が成長し、人材が不足していた時代には、大変良くできた制度でした。

 しかし、現代は経済の成長は鈍化し、人材が不足していても地方都市に住むフリーランスの人や、海外の会社に仕事を発注することができます。

 例えば、私が現在実施しているプロジェクトのほぼ全てで、外部メンバーとの連携が発生しています。インドネシア在住のフリーランサー、ベトナムのスタートアップ、日本の大学などが共創型のチームを形成して一つのプロジェクトに関与しています。

 同じ釜の飯を食った、同じメンバーで長期にコミットして成長していくモデルは既に崩壊しているのではないでしょうか。

個人がそれぞれの貢献に合わせて
インセンティブを受け取れるようにする

 コロナ禍によるリモートワークの普及によって、アウトプットだけが評価される時代になりました。

 Zoom越しの商談で発言できない部長は、次から呼ばれなくなります。パワーポイントがつくれない企画者のアイデアが採用されることはなくなります。

 これまで制度によって守られていた古き良き働き方は崩壊し、一気に働き方改革が進みました。こうした時代を生き抜く共創型のチームが成立する要件の一つは、正しくプロジェクトを評価して、その中でメンバーの報酬を分け合うことです。

 チームメンバーの評価は、そのメンバーが将来どれくらいの価値を生み出せるかをもとに実施しましょう。新たなメンバーを選出するときも同様で、メンバーの加入によって将来価値がどれだけ増やせるかを基準に判断するようにします。

 また、将来価値の増加に全く寄与していない人は、残してはいけません

 フリーライドを許してしまうと、チームのモラルが崩壊して、優秀なメンバーはすぐに去ってしまいます。

アジャイル仕事術』では、将来価値に応じた報酬の支払い方以外にも、アジャイルなチームを運営するための技術をたくさん紹介しています。ぜひご一読ください。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。