“野心的な気候変動対策”実現には
家庭部門での削減が不可欠

 冒頭に示した2030年度における温室効果ガスの46%削減(2013年度比)を目指すため、政府は2021年7月に「地球温暖化対策計画案」を公表し、家庭部門(家計が住宅内で消費したエネルギー)を66%(旧目標39%)削減するほか、オフィスなど業務部門で50%(同40%)、車や鉄道など運輸部門で38%(同28%)、製造など産業部門で37%(同7%)削減するという内容を公表した(併せて廃棄物の焼却を減らすなどして15%減を目指すほか、都市緑化の推進など吸収源の拡大で4800万t分の温室効果ガスの削減も盛り込んでいる)。

 この家庭部門における温室効果ガス66%削減の意味するところを解明すると、2021年末に環境省が公表した2020年度の温室効果ガス総排出量(速報値)は11億4900万tであり、1人当たり10t程度排出している計算になる。このうち、家庭部門の温室効果ガス排出量(電気・熱配分後換算値)は1億6700万tで1人当たり1.2t程度、世帯当たりだと2.91t(前年度から約7%増加)と公表されている。

 家庭部門(専ら住宅内で消費されるエネルギー)の課題を浮き彫りにするためにもう少し数字の羅列をお許しいただくと、月別の消費では圧倒的に冬季が高く、1月がピークで世帯当たり397㎏、2月が349㎏なのに対して、7月は163㎏、冷房の使用が増える8月でも190㎏と冬季の半分以下にとどまっており、地域別では北海道で世帯当たり4.77t、東北で4.40t、北陸も4.36tと全国平均の2.91tを40%以上も上回っているから、特に冬季および寒冷地でのエネルギー消費についての対策が急務であることが明らかだ。

 また、住宅の形状別では世帯当たり戸建てが3.62tであるのに対して集合住宅は2.02tにとどまり、エネルギー効率は鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)や鉄筋コンクリート造(RC造)が中心の集合住宅が明らかに高い。

 つまり、寒くなる時期に、特に寒さが厳しい地域の戸建て住宅においてエネルギー消費が大きい(=エネルギー効率が悪い)ことが明確であり、これらの住宅についてエネルギー消費を可能な限り抑制すること、断熱性を高めてエネルギー効率を高めることが、家庭部門における温室効果ガス66%削減を達成するための基本対策となる。

 ただし、温室効果ガスの発生量は、SRC造およびRC造中心の集合住宅では鋼材を主に火力発電によって銑鉄するため、1立方メートル当たりのCO2排出量が5320㎏発生するのに対して、木材は僅か124㎏と約43分の1にとどまり、住宅を建設する際の排出量に大きな違いがあることも踏まえる必要があるだろう。

 また、CO2を吸収して中にとどめておく“固定化”においても木材は優れた能力を持っているから、焦点は戸建て住宅の断熱性をいかに高めるか、もしくは断熱性の高い戸建て住宅をいかに増やすか(さらには木造マンションをどれだけ増やせるか)ということになる。

 日本の住宅、特に戸建て住宅はエネルギー効率が悪く、特に部屋を暖めるために多量の電気、ガス、灯油などを消費しているという事実を、我々はまずもって認識する必要がある。部屋や住居を暖めるために使用されているエネルギーが、蓄熱されずに外部に漏れてしまうのは“無駄”でしかない。国交省の資料によれば、断熱性能の高いドイツの住宅の暖房に消費されるエネルギーは日本の5分の1というから、喫緊の課題と言うべきだろう。