上昇する物価と、上がらない給料、そして将来への先行き不安。そんな状況から「投資」を始めた人も多いのではないだろうか。しかし多くの日本人は「投資」と「投機」を混同している。「投資」は、短期間に株の売買を繰り返すことではない。選び抜いた企業のオーナーとなり、その成長を長い期間で楽しむのが「投資」だ。企業を選び抜くには、さまざまな分析と考察が必要である。その思考法が書かれたのが『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』(奥野一成)である。「投資家の思考法」を身につければ、投資はもちろん、あなたのビジネスも成功に導かれるはずだ。

【プロ投資家の教え】レーザー&ブレードモデルも1つではないPhoto: Adobe Stock

似ているように見えるけれど、実は違うもの

「一見、同じに見えるけれども、実は異なるもの」「似て非なるもの」というタイプのアナロジーについて考えたいと思います。

 人間には日々の生活習慣や慣れがあります。その習慣にどうしても必要で、永続的に買い続けなければならない商品もたくさんあります。例えば私は今この文章をマイクロソフトのWordで書き、表はExcelで作っていますが、レイアウトが思い通りにいかなかったり、印刷時に表示範囲がずれたりと、これらのソフトへの不満はたくさんあります。にもかかわらず、もう20年以上Office製品を使い続けています。

 社内の全員がこのソフトに慣れており、この規格で作成されたファイルが膨大にある現状を考えると、ソフトを切り替えることによる労力や事務リスクが莫大なものになるからです。

 このように、ある製品やサービスから別のものに乗り換える際の金銭的、心理的、手間などのユーザーの負担を「スイッチングコスト」と言います。世の中には、スイッチングコストで永続的に利益を生むビジネスモデルがたくさんあります。

 なかでも代表的な「レーザー&ブレードモデル」は、ジレットというアメリカの剃刀メーカーからはじまりました。

 ジレットの創業者であるキング・C・ジレットは、瓶の王冠を製造するクラウン社で営業を担当していました。自分が売っている製品が、栓を開けた瞬間に用済みのごみとして捨てられていくのを見た彼は、「使い捨て製品だからこそ、顧客は継続して買ってくれるのだ」ということに気付きました。

 1903年にジレットは、使い捨ての替え刃と持ち手に分けた剃刀を開発し、商品化しました。当初はなかなか売れずに苦労したようですが、なんとジレットは在庫の剃刀を飲料のおまけとして無料で配ってしまいました。初めから本体で儲けるつもりはなく、男性がひげを剃るたびに摩耗し、買い替えが必要になる替え刃で収益を上げる魂胆だったのです。

 つまりこれは、機械・器具などの製品は安く販売して利用者数を増やし、その製品に付随する消耗品や保守サービスなどで収益を上げるビジネスモデルです。消耗品の内容にもよりますが、本体製品が使用される期間中に利用者が消耗品に対して支払う金額の合計は、本体価格の5~10倍に及ぶと言われています。要するに、顧客の製品購入コストは下げても、スイッチングコストを払い続けてもらえばよいのです。

 ハードとサービスを組み合わせる手法もよく用いられています。

 例えば、コマツ(建設機械部門売上げ世界第2位の建機メーカー)は、2001年からコムトラックス(Komtrax)というシステムを建機に標準搭載しています。コムトラックスにはGPS、通信システム、各種センサーなどの機能があり、位置情報や建機の稼働状況などの情報を一元管理できる仕組みになっています。この情報により、同社の顧客は建機の稼働効率性やオイルの交換時期を知ることができ、盗難防止にも役立っています。

 コマツは、このシステム自体は無償で提供し、収集した情報をさまざまなサービスに活用しています。稼働状況から建機の故障が予測された場合は、直ちに交換部品を持った修理技術者が位置情報をもとに現場へ駆け付けます。顧客である土木工事業者にとって、建機が止まってしまうことは工期やコストのオーバーランにつながるため、交換サービス料が多少高かったとしても利用するでしょう。このような未然の保守サービスには大きなメリットがあるのです。