全員が顧客視点で考えるための
「フィロソフィ」と「社内売買」

 アメーバ経営で大変重要なのは、稲盛氏も繰り返し話していたことですが、社員が働くための指針となる「経営理念」であり「フィロソフィ」です。

 アメーバ経営では部門別独立採算制度を「社内売買」によって成立させていました。社内売買の考え方により、総務部や人事部、システム部といった非採算部門(コストセンター)も、社内の別の部門を顧客とする採算部門(プロフィットセンター)と見なすことができます。営業部門や店舗などの採算部門だけでなく、全員が「どうすれば顧客視点で利益を最大化できるか」を考えていける仕組みです。

 稲盛氏がこのような仕組みを考えたきっかけは、京セラ創業期に採用した新卒社員が提示してきた待遇改善要求にありました。要求の内容は昇給・ボーナスの最低額を将来にわたって保証せよというものです。創業間もない、会社が1年後も存続しているかも分からない時期に、将来にわたる約束など到底できるわけがありません。そこで稲盛氏は「一緒にこの会社を成長させることができたなら、その成長によって得られるものをきちんと分配していく」と説明し、納得してもらったといいます。

 このことは稲盛氏にとって、「会社が何のためにあるのか」「従業員全員で成功を目指すにはどうすればいいか」を考え、理念を重視し、全員が経営者視点を持つべきと考えるに至るルーツとなったように思います。

 改めて見直してみると、アメーバ経営をはじめ、成功企業の経営理念には多くの共通点があることに気づかされます。

 全員参加経営や、経営者意識を持つ人材の育成は、“起業の天才”と言われた江副浩正氏が創業したリクルートにおける「圧倒的当事者意識」や「社員皆経営者主義」に通ずるところがあります。また、独立採算制と1人あたり・時間あたり採算で成果を測ることは、利益を見ることにつながります。これは高収益・高年収で知られる製造業のキーエンスが、売上ではなく利益で社員を評価することに近い考え方だと思います。

 さらにフィロソフィを重視するというのは、いわゆる「ミッション・ビジョン・バリュー」の重視、最近でいえば「パーパス経営」と呼ばれるやり方と同じだと感じます。