滅びゆく運命にあらがい
ベーゴマを作り続ける理由

 ニーズの減少や後継者不足、キューポラの問題など、さまざまな課題に直面しているベーゴマ業界。そんな中、辻井社長はベーゴマの製造・販売の他に、小学校や商業施設へ赴いて体験教室の開催、全国ベーゴマ選手権大会の協力など、啓発活動も精力的に行っている。

「日三鋳造所の先代は、いまは亡き叔父でした。当時、会社ではいろんな機械部品を作っていましたが、新人だった私が任されたのはベーゴマ作り。それを最初に聞かされたときは『え、ベーゴマ?』と目が点になりましたね。叔父はコスト意識が高い人で、ベーゴマは会社の売り上げの10%以下に抑えるように、と口すっぱく言われました。ベーゴマでもうけが出ない分は、利益率のいい他の製品で稼げばいいと。しかし、注文に追われて大忙しな状況の中、何でわざわざ薄利なベーゴマなんか作らなきゃいけないんだ!と叔父によく反発していました。

 後々知ったことですが、ようするに叔父は子どもとベーゴマが好きだったんです。商売とは別に、好きなものを作りたいというこだわりがあったのでしょう。会社をこっそり抜け出しては、小学校に行って子どもにベーゴマを教えていたそうです。結局、私も年を重ねて考え方も変わり、当時の叔父と全く同じことをしています。いまは子どもたちにベーゴマを教える時間が、一番楽しいです」

 改めて、辻井社長のベーゴマに懸ける思いとは。

「世の中にとって、ベーゴマが役に立つ物かはわかりませんが、少なくとも害になる物は作りたくない。特にいまはコロナの時期。ベーゴマで遊ぶ子どもたちの間で、もしクラスターが発生したら……と不安で仕方ありません。5年前に大病を患ったこともあり、家族や仲間からはもういいかげん引退しろと言われています。過去に自社工場を閉鎖した際、ベーゴマ製造もいったんやめました。しかし、製造をやめないでほしいという声が全国から集まり、身を引けずに再始動。商品を欲しがる人がいるのなら作るしかない。それが日本で唯一のベーゴマ専門メーカーの使命だと思っています」

 直径わずか30ミリほどの鋳物に、全力で技術と矜持(きょうじ)を注ぎ込む辻井社長。御年75歳のベーゴマ愛は、まだまだこれからも加速していくのかもしれない。