ロールモデルとの出会いが
「モヤモヤ」の表面化につながる

「うちの子は先ほどお伝えしたように発達がゆっくりなのですが、普通学級へ通うか、支援学級へ行くか、すごく迷ったんです。今の日本の教育は、インクルーシブ教育はあまり実現はされていないので、普通学級の中でやっていくにはしんどいことも多いだろう。でも、やっぱりお兄ちゃんと同じ学校に行きたいのでは、地域の人たちと触れ合う中でできることもあるんじゃないかな、という葛藤がありました」

 諏訪氏が続ける。「学校内に支援学級がある学校もあれば、そうでない学校もある。なぜ発達が遅いからと学校が別々にならないといけないのだろうか、そもそも教室を分ける必要はあるのだろうか、そういったことを考えているうちに、市の教育制度や文科省の制度、国の制度なども気になってきて、これはどういうことなんだろう、どういう人たちがどういうことを言っているんだろう、同じような思いを持っている人や代弁してくれている人はいるのだろうか、といったことを調べているうちにおもしろくなってきて、それを皆にも知ってもらおうと広めているうちに、それがバズったというか」

「私自身、子育ての中で感じていること自体が、イコール、政治課題なんですね。国と国との争いといった大きな政治課題もありますが、今、私が目の前で接しているこの子が、どこの学校へ行くかということも政治と密接に関わっている。身の回りのことはすべて政治課題につながっているということに気づくと、皆さんが今、抱えている生きづらさとかは、皆さんだけの問題では決してなくて、すべて政治課題なんですよ、ということを言いたくなったんですね。どうしても伝えたい、という気持ちがモチベーションにつながったんです」(同)

田原氏Photo by Aoi Higuchi

 高校の教員をしているという参加者が「どんな人でも、大なり小なり、『モヤモヤしている』『何か引っかかっている』ことはあると思うんです。それを言葉にできないし、しない人のほうが世の中には多い気がします」と話す。

「生徒をみているとやはり、何かモヤモヤを感じているけれど、言葉にしない、またはできない子が多い。そのことをすごく感じるんですね。もしくは、言葉にしていたけれど、しなくなった子もいます。学校教育の中で、意図していようがいまいが、そのモヤモヤしたものを言葉にしないように教育されたのかなというのを、これまでのお話を聞いていてすごく感じたんですね。ルールを守ることが正しいんだとか、自分のわがままを言うと周りの足を引っ張ってしまうのではないかとか、そのような意識になるように、カリキュラムの見えないところで設計されてしまっているのかなって」(同)

「じゃあ、それを今からでもいいから、皆ができるようにしていこう、そのためには自分たちは何ができるのか? これについてぜひお聞きしたいです。​私は教育業界の人間なので、もちろん教員としてできることはやっていきたいと思いますが、学校だけでなく、それぞれの人が、それぞれのコミュニティで何かできるとすれば、何があるのかなと(同)

「私も高校で授業をしていて、そのことはすごく感じます。モヤモヤを表現する言葉を持っていなかったり、そもそも発するモチベーションがなかったり。政治や、汗かいて行動している人たちに対しては、少し引いてしまってるフシもある」と、古野氏が今の意見に賛同して話を続ける。

「なので、私が意識してるのは、諏訪さんみたいに声を出している人、動いている人に、まず、出会わせることです。ロールモデルがいるということを実感させる。それは彼らにとってすごく強いインパクトになると思うんです。私は教員として、そこを仲介する役。生徒の前に連れてきて、一緒に話してもらうことで、『汗かいて動いている人や必死に言葉で伝えようとしている人はかっこいいんだ』ということを実感してもらう。この前、各党の政治家の人たちに来てもらった時、それまで政治にまったく関心のなかった生徒たちが、見たことのない目の輝きを見せたんですね。あ、政治家って、本当に汗かいて人々のために動いているんだな、と。ロールモデルと出会うことで、表現しよう、活動しよう、というモチベーションにつながると思うんです。ですので、それは自分の中ですごく意識してやっています」