創造的思考のパラドックスを超え 新たな価値を描く

予定調和な最適解から、見たこともない価値創造へ――。あらゆるイノベーションは、既知から未知へのジャンプを伴う。その鍵は、ロジックの外側にある「感じる力」にあるのではないだろうか。本連載では、さまざまな領域でユニークなデザインプロジェクトを手掛けてきたTAKT PROJECTの代表、吉泉聡氏と共に、さまざまな角度から「感性」を解きほぐしていく。第1回では、発想のジャンプを阻む「分かったつもり」の危うさについて考える。

未知への旅は「不確かさ」から始まる

 新しい商品、新しいサービス、新しい事業――。まだここにない「新しい価値」を創造することは、今のような変化が激しい世の中では、とても大きなテーマです。それはつまり、どのように「未知」にアプローチするかという問題。しかし、目指す場所が「未知」ならば、既存の地図は使えないはずです。では、どうすればそこにたどり着けるのか…。この連載では、私自身の体験を基に、その道筋を探ってみたいと思います。

 私も、デザイナーとして「未知の可能性」を日々追い求めています。こうしたデザインのプロセスを通じて強く実感しているのが、知識を積み上げ、方程式化するタイプの知性だけでは「未知」にアプローチできない、ということです。もちろん、デザインにもさまざまなツールがあり、メソッドがあり、セオリーがあります。それらを使いこなすことはとても重要です。でも、それだけで良いものが生まれるかというと、そうではありません。

 1本の線を引く。例えばそんなシンプルな作業にすら、確かな答えはありません。どこから? どこまで? 太さは? 色は? どんな道具で? どれくらいの力で? 無数の選択肢から「何か」を選び取っていく。そのとき、「なぜ、その線を引いたのですか?」と問われても、ひとまず「良いと感じたから」としか言えません。

 無数の線は、やがて「形」にたどり着きます。すると私は「なぜよいか」を語れるようになっています。そして、他者からも「確かに良い」という共感が得られます。出発点は「不確か」なのに、たどり着いた先に「これだ!」という確信が生まれる。ここに、未知にアプローチするための大きなヒントがあるように感じます。