秋山 社員に出社を命じたイーロン・マスクですね。私は、以前、120カ国の人が働く会社で役員の仕事をしていたときに、海外の本部とは普段は電話会議をしていました。1年に1回、アメリカのCEOや役員たちがアジアツアーに来て対面で重要なことを意思決定し、あとは各国の法人に委ねる。しかし、重大事が起これば、担当役員がすぐさまアメリカに飛んでいくというやり方でした。リモートワークをする会社もリアルでやるべきときはリアルを使うという機動性がないと……。重大な話は、かんかんがくがくの議論をしなければ、なかなか決められませんよね。

リズムを使って脳を同期させ
場を盛り上げる

秋山 同期について質問があります。停滞している会議で、誰かが「こういうの、どう?」などという名案を出したときに、途端に空気がひとつになるということがありますが、あのとき脳は同期しているのでしょうか。

川島 私たちの実験ではありませんが、NHKの教育テレビで漫才師の脳活動を計測していました。会場が盛り上がると、漫才師の脳の活性も同期し、観客が落ち着くと、脳も沈静化するということを繰り返していました。リズムを使うと脳が同期しやすいという性質があり、普通の漫才をリズムネタの漫才に変えると観客との脳の同期率が高まり、見終わった観客の満足度が高くなるというデータもあります。場の空気自体も脳の同期でつくりだすことは可能です。しかもそれを可視化できます。かつては話し上手な人だけが観客をひきつけるコツを知っていたのですが、脳科学の成果で、リズムを採り入れるなど、誰にでも応用可能な方法が明らかになっています。

秋山 短くしゃべって、リズムをつくり、その後長い話に移行するとか、それで退屈しだしたら、また話し方を切り替えたり。

川島 教育現場で生徒と気持ち通わせる一助として採り入れてはどうかとある会社に提案しています。ほかにもブレストの前にリズムを合わせれば、アイデアが出やすくなったり、村祭りの太鼓で集団の気持ちをひとつにしたりといろいろ使い方があります。ラジオ体操は、戦時中、国民の洗脳という好ましくない方向に使われたこともありました。ともあれ、リズムによって、同じ心の状態をつくり、同じ向きに心を合わせることができるのです。体のリズムだけでなく、一定のビートを効かせた音楽を会議前に流すなどでも効果的です。ただし、クラッシック音楽では効果はありません。

秋山 プロレスで、テーマ曲をかけながらレスラーが登場し、会場が盛り上がるのと同じですね。同期して一緒に何かしたくなる集団心理をつくるんですね。悪用すると洗脳になりますが、使い方次第ということですね。

川島 場の空気をつくり、いい対人関係をつくることもできます。話し方を習わなくても、リアルタイムの脳の動きを測るデータを表示し、それを見ながら一番いい方法を見つけることもできます。リズムを使わず、相手と同じ行動を取ることでも同じ効果が得られます。

秋山 お客さんのしぐさをまねすることで心をつかむセールスマントレーニングもその応用だったのですね。脳活性の技術、空気の解析は実はかなり進んでいますね。

川島 脳科学的にはいずれも同期のテクニックなんです。

>>後編に続く