社会とは「個人の集まり」
個人が変わらなければ社会は変わらない

対談Photo by H.K.

田原 安倍内閣のとき、政府は「異次元の金融緩和」を実施し、そのうえで、積極財政によって経済成長すると言い切ったけれど、結局、積極財政も経済成長も両方とも実現しませんでした。

田内 金融政策は実施しました。でも金融政策だけしても問題は解決しません。お金を出したとしても、そのお金を使って、どこに人のリソースを割くのかが大事なのです。

 日本が成長するというのは、GDPの伸び率ではなく、生活が豊かになるような技術製品が出てくるということです。ですから、そのための技術開発や研究に対して、人というリソースを割くべきことこそが大事なはずなのに、それが起きませんでした。

 政府がお金を使ったからといって、必ずしも成長には結びつきません。政府だけの問題ではなく企業の問題でもあります。人口が減っていって、日本の内需が縮小してく将来に対して、企業はすごい不安を抱えています。将来の不安があるから、お金を貯めているという話もあります。

田原 企業の内部留保がどんどん増える。

田内 政府だけでなく、企業も投資にお金を使うべきなのです。投資といっても先ほどご説明したように、株を買うような投資ではなく、新しい生産設備、技術開発や研究への投資といった、未来への投資です。

 企業は不安だから、給与を上げない、設備投資をしないで内部留保する。個人も不安だから消費しない、子供も持たないし、結婚もやめておく。問題の根源にあるのは、企業や個人が持つ「将来への不安」であり、まずはこれを払拭する必要があるのだと思います。

田原 個人でできることは何かあるのでしょうか?

田内 「周りの人に温かい声をかける」ことからでいいと思います。今、社会がけしからん、世の中がけしからんと、みんな、不満ばかり言っています。怒ったり不満を言ったりするだけでは、社会は変わりません。でも変えないといけない。変えるのは誰か、それは自分です。

「社会」というのは、私たち「ひとりひとりの個人の集まり」です。社会に不満があるなら、社会を変えたいなら、ひとりひとりが変えていかなくてはいけないのに、そのことに気づかずに「自分じゃない誰かが変えるもの」と思っている。けれども、自分たちひとりひとりが変える気にならないと、社会は絶対に変わりません。

田原 自分が変えなければと動かなければ、社会はいつまで経っても変わりっこない。

田内 大きな改革を政府に要求するだけではなく、例えば、子育てをしている人に冷たい視線を向けず、温かい声をかける、それをひとりひとりが意識するだけでも、ひとりひとりが集まってできている社会は変わっていきます。近所にあいさつするだけでも社会は変わるんですね。

 人間関係をお金に頼り、お金以外の方法で人間関係をつくらなくなった結果、「社会は財布の中にある」ということになってしまった。けれども、お金を使えば問題解決ができるわけではない。

 お金の本来の価値というのは、将来誰かに働いてもらうことのためにあるんです。誰かが働くことでものやサービスがつくられ、それが将来、誰かを幸せにする。「自分の代わりに誰かが働いてくれる」と思わず、「自分も社会の一員だ」ということを私たち自身が考え、感じなくてはなりません。そしてそのような教育も必要だと思います。

田原 お金じゃなくて、人こそが大事。批判や不満を言っているだけではなく、私たちひとりひとりが、周囲の人とのつながりを取り戻していかなければなりませんね。