2022年の中学受験者数は過去最大の5万人を記録し、中学受験の競争は激化している。東京・吉祥寺を中心に都内に展開する進学塾VAMOSは、「入塾テストなし・先着順」で生徒を選抜しないが、「普通の子ども」を有名難関校に続々と合格させると話題の塾だ。VAMOS代表を務め、新刊『ひとりっ子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)の著者である富永雄輔氏は、「中学受験では、偏差値だけでなく、子どもの特徴や家庭の方針にあった志望校選びが極めて大事だ」と強調する。
自ら多くの中学を訪問し、中高一貫校の最新事情に明るい富永氏に、近年注目度が上がっている進学校について話を聞いた。本記事では、渋谷教育学園渋谷中学校、海城中学校を取り上げ、富永氏独自の視点から、各学校の魅力と人気の理由に迫る。
注目の進学校(1):渋谷教育学園渋谷中学校
渋谷教育学園渋谷中学校(以下、渋渋)は、渋谷駅から徒歩10分ほど、明治通りから表参道側に一本入ったキャットストリート沿いにある完全中高一貫の共学校で、全国トップレベルの進学実績を誇ります。
今となっては、多くの学校が「グローバル教育」をキーワードに掲げていると思いますが、20年以上も昔から、渋渋ほど本気でグローバル教育を実践してきた学校は類がありません。
グローバル教育の先端を実践する学校
渋渋の大きな特徴の一つが、英語力が高い帰国生が数多く入学するところです。この学校の帰国生を対象とした中学入試は、東京大学の英語の試験よりも難易度が高いと感じるほど。もちろん、日本で育って入学してきた子どもも、中学からの6年間で、充実した英語教育を受けることができます。
くわえて、先生の話を聞くだけの授業スタイルではなく、学生が意見を出したり議論をしたりするスタイルの授業を早くから徹底して実践してきた学校です。
ちなみに、渋渋の教育を象徴するのが「模擬国連部」で、ニューヨークで開催される世界大会に参加する学生も出ています。
模擬国連とは、学生が各国の大使になりきり、実際の国連会議をシミュレーションする教育活動。各大使は、会議準備として担当国や議題についてリサーチを行い政策を立案する。会議では自国の政策をもとにそれぞれの国益を考慮しながらも、国際社会としての問題解決に貢献するために、演説や交渉を行う。
※グローバル・クラスルーム日本委員会ウェブサイトを参照 http://jcgc.accu.or.jp/aboutmun.html
このように「語学力」や「ロジカルに議論をする力」を伸ばす教育が、カルチャーとして根付いているのがこの学校の優れたところで、人気が高まっている理由の1つです。
帰国生が一定の割合でいることで、学校の中に多様性が生まれ、帰国生と一般入試を勝ち抜いた学力の高い子どもたちが刺激し合うことで、毎年多くの生徒が東大をはじめとする難関大学へ進学します。また、海外大学への進学者数は全国トップクラスです。
自主性を重視する保護者や子どもには最高の環境
ーー都心にあってアクセスが非常にいい反面、敷地やグラウンドの狭さを気にする方もいらっしゃるようですが、どんな子どもに向いている学校ですか?
「学校といえば何よりもまずグラウンドが広くなきゃいけない」というのが、これまでの学校の一般的な考え方だったのではないかと思います。運動系よりも文化系クラブが盛んな学校であっても、たいていはそれなりの広さのグラウンドを持ってるんですよ。
でも渋渋の場合は、グラウンドが狭くて運動には制限がかかりますが、その他の教育を充実させますっていう発想の転換がすごい上手な学校という印象です。たとえば「男の子なら、広いグラウンドで運動しなきゃ」という考え方の保護者がいる一方で、男の子の中にだって運動嫌いな子もいるわけで、そういう子どもにとっては、グラウンドが狭いということが全くデメリットじゃないワケですよね。
文化部が充実しているほか、室内競技である柔道ではオリンピック選手も輩出しています。グラウンドの狭さを気にせず、自分のやりたいことを見つけていきたいという子どもにとっては、充実した中高6年間を過ごせる環境だと思います。さらに、現代的で自由な校風の学校ですので、子どもの自主性を大事にしたい保護者にとって魅力的な学校でしょう。
一方で、学校から与えられた課題をやることが得意な子どもや、精神的に幼さが残る子ども、グラウンドの狭さが気になる子どもにとっては、必ずしもこの学校が最高の環境と言えるわけではないので、志望校を選ぶときには、違ったタイプの学校とも比較しながら、わが子にとってどんな学校が最適なのかをしっかり検討することが何よりも大切です。