「御社の仕事は『30歳が50歳に勝てる仕事』ですか?」
一方、逃げ場がない民間企業サラリーマン組織では、会社に余裕があれば定年まで《出世降り組》にも仕事があるが、業績が厳しくなると、窓際族になって早期退職コースをたどるか、より強制力の強い「追い出し部屋」行きとなる。
社会から必要とされる専門技能を身につけられる職種(医師や看護師など専門職が典型)を選べば、そのような心配はなくなる。「なんとなく総合職」が、リスクの高い仕事選びであることがわかるだろう。
医師と同様、プロフェッショナルファームの組織は、年齢を重ねることで余剰人員にはならない。リーマンショック後の10年で、最も選べる立場にいる東大生の間でコンサル会社への就職人気だけが明らかに高まったのは、その点からも理解できるところである。
職人の世界も医師と似ていて、たとえば料理人も、有名店などに弟子入りして修業を重ね技術を学び、独立して自分の店を構えるのが一般的。
一方、同じ医療業界でいえば、病院の事務職(受付、カルテ管理、レセプト計算、請求……)なら、30歳と50歳で差がないし、ルート営業で回っている製薬会社のMRも、30歳と50歳の差があまりない。特定の薬について学ぶのに10年もかかるわけがないからだ。
「御社の仕事は、30歳が50歳に勝てる仕事ですか?」は、よい質問といえる。勝てる職種は、専門性が低く、失業リスクが高い。
新聞記者は、本来、米国のジャーナリストはプロ集団なので、自分の専門領域(たとえば政治)を追究し、その分野で人脈を築いて第一人者となる者もいるし、新聞社をわたり歩きながら個人の名前で署名記事を書き、専門性を高めていく。
だが、日本の新聞記者は完全なサラリーマン組織で、大半の記者は、支局と本社を辞令のとおりに行き来して、さしたる専門性もないまま、最後は「支局長」として定年を迎えるのが一般的である。新聞社の名刺がなくなったら失業する。会社の名刺で取材しているので、署名記事は、ほとんど書けない。ごく一部の論説委員だけが専門性を高めるが、独立して食えるレベルの人は、ほぼいない。