グローバル企業はEC企業との関係強化に先行投資している

 前節で紹介した、欧米のグローバル先進企業がECをマーケティングチャネルとして活用している事例を具体的に示そう。実は、彼らは数年前からEC企業との協働によるビジネスやブランド創出に取り組んでいる。主だったEC企業と「戦略的パートナーシップ」を結び、EC・デジタルでいかに顧客を創造するかの実験を協働で行い、数々のイノベーションを生み出してきているのだ。

 その1つに、EC企業が保有する膨大なデータを活用したプロモーション開発がある。EC企業には販売データや消費者の行為データ、広告データが大量に蓄積されており、「データ・テクノロジー企業」としての側面も持つ。

 しかし、これらのデータを活用し的確なプロモーションを打って売上に変えるには、消費者理解に基づいてデータを分析し、インサイト(顧客が潜在的に求めているもの)を導出しなければならない。その役割を担うのが、消費者を最もよく理解するメーカーというわけだ。前述した消費財企業は自社のデータ分析アナリストを無償で大手EC企業に派遣し、彼らの持つ膨大なデータの山を解析して新しい販促ソリューションを創り上げる支援をしている。

 それだけではない。大手EC企業はパートナーシップを締結する消費財企業に対し、それらのソリューションを先行利用できる権限やさまざまなデータを無償で与える一方で、創出されたソリューションを日本企業など他の企業に販売し、利益を得ている。つまり日本企業は、欧米のグローバル先進企業が大手EC企業と協業して構築したソリューションを高い金を出して買わされる側なのである。その間、欧米のグローバル先進企業はさらに先のソリューションを開発し、先行利益を享受する。まさに、EC企業と組んでいち早く価値創造する欧米企業と、フォロワーとしての日本企業という構図が浮き彫りになっている。