成長のカギはEC企業のOSのインストール 中国EC企業幹部と会話した際「日本企業はもっと我々のOS(Operation System)を活用し尽くして、世界市場での成長につなげてほしい」と言われ、大きな衝撃を受けた。ECプラットフォームではなく、“OS”である。確かに彼らは世界中でECのみならずリアル小売企業を買収し、データマーケティングツールを豊富に持ち、AIやクラウドテクノロジーにも投資するなど、すでにEC企業の枠組みを越え、顧客企業のビジネスをE2E(End to End)で支援できるリソースを保有している。
ただし、いまだに日系企業は、「ECは(リアルチャネル同様の)1つの販売チャネル」と見なす傾向が強く、せっかくの成長ポテンシャルを発揮できていないようにEC企業幹部からは見えているということだ。本書『全世界で売れ。』のメッセージは、日系企業はもっとEC企業のOSを使い倒して、グローバル成長につなげよう、ということに尽きる。
アルゼンチンのEC化率は71%超にも
新型コロナウイルス感染症の世界的流行が、ECを飛躍的に伸ばしている。世界の消費額におけるECの構成比は、新型コロナ前の2019年は12.5%だったが2021年には18.3%、EC市場規模も3.2兆米ドル(約388兆円)にまで拡大している。この流れは、特に消費財メーカーにとって影響が大きく、すでにECで勝たずして世界市場を制することはできないほどの状況にある。
ここでは、中国消費財カテゴリの2018年と2021年を比較したEC化率(全体売上に占めるECの構成比)を見ると、高い順に、美容・パーソナルケアが38.6%、衣料品が35.4%、OTCヘルスケアが33.9%、と、いずれも2018年比で加速していることがわかる。また、EC売上は、どのカテゴリも2018年比で1.5倍〜2倍近くになっている。中国だけではなくアメリカも同様だ。State of snacking reportによると、スナック菓子のEC化率はコロナ前には20%だったが、2020年には39%と約2倍にまで上昇した。
特に、かさばるものや重いもの、価格が高くて定期的にリピート購入する商品のEC化率が急速に上昇している。ECで購入したほうが楽で、手軽で、スピーディーだからだ。また、ECのほうがリアル店舗よりも安く売られていることが多いのも一因だろう。
EC化率の上昇トレンドは新興国にも見られる。たとえば、2016年から2020年までのCAGR(年平均成長率)は、アルゼンチンが71.6%、ブラジルが27.7%、ナイジェリアが27.1%と、26%である中国と同様か、それ以上に高い数字となっている。
新興国での急成長はコロナだけが要因ではないが、コロナによって人との接触を減らしたいと考える消費者が増え、使ってみたら思ったよりも簡単であるとか、楽だと実感した人が一定数いるということだ。
前述のアメリカでのスナック菓子の購買傾向の変化を調査したState of snacking reportでは、「コロナ終息後も、オンラインでの購入を続ける」との回答が69%だった。このことからも、EC化のトレンドは不可逆なもので、今後も成長していくと予想できる。まさに、EC活用の巧拙がグローバルでの競争力に直結する時代が訪れようとしているのであり、本書は出遅れがちな日系企業に向けてその処方箋を提示するものである。