「世界で売る」グローバル先進企業

成長のカギはEC企業のOSのインストール  中国EC企業幹部と会話した際「日本企業はもっと我々のOS(Operation System)を活用し尽くして、世界市場での成長につなげてほしい」と言われ、大きな衝撃を受けた。ECプラットフォームではなく、“OS”である。確かに彼らは世界中でECのみならずリアル小売企業を買収し、データマーケティングツールを豊富に持ち、AIやクラウドテクノロジーにも投資するなど、すでにEC企業の枠組みを越え、顧客企業のビジネスをE2E(End to End)で支援できるリソースを保有している。
ただし、いまだに日系企業は、「ECは(リアルチャネル同様の)1つの販売チャネル」と見なす傾向が強く、せっかくの成長ポテンシャルを発揮できていないようにEC企業幹部からは見えているということだ。本書『全世界で売れ。』のメッセージは、日系企業はもっとEC企業のOSを使い倒して、グローバル成長につなげよう、ということに尽きる。

世界ではECを梃子にした事業成長実験が

 勢力を増し続ける有力EC企業と欧米のグローバル先進企業は、「マーケティングチャネルとしての活用」「市場進出としての活用」という2つの面で協力関係にある。具体的に見ていこう。

1 「マーケティングチャネル」としてのEC活用

 欧米のグローバル先進企業は、ECを販路としてだけでなく、新商品開発やブランディングを目的とした「マーケティングチャネル」としても活用している。たとえば、ある消費財の大手メーカーはコンセプトや処方、価格に至るまで、大手EC企業の消費者データを活用して、新ブランドを共同開発している。欧州の高級車メーカーは、事前の顧客ターゲティングからプロモーション、先行販売に至るまでをすべて大手EC企業のプラットフォームで完結させた。EC店舗で先行発売した際は、約30秒で数百台もの販売目標を達成している。

 EC化が加速する中国は、ECで普段購入する消費者が中国市場全体の消費者像を体現するといっても過言ではない。そこで、欧米のトップ企業は日用品から高級耐久品にいたるまで、詳細なデータを取れる大手EC企業のマーケティングツールを活用し、ブランディングから顧客創造までを実現しているのである。

2 「市場進出チャネル」としてのEC活用

 従来の市場進出といえば、「現地企業を買収(M&A)する」「現地企業とライセンス販売契約する」「現地法人を設立、卸売業者と契約し商品を流通させる」が主要なアプローチだった。だが、すでにリアルチャネルが確立されている市場への進出は、交渉に金も時間もかかることが多い。そこに登場したのがECという第4の道である。各地域のEC企業とのパートナーシップでスピーディーな進出が可能となった。

 その1つが越境ECだ。近年、中国向けの越境ECが急激に成長し、オムツや化粧品が爆買いされたことは記憶に新しいが、昨今ではアフリカや南米といった各地域の有力EC企業が越境ECに取り組んでいる。各地域の“ECジャイアント”は軒並み10カ国を超える販売拠点を持っている。その彼らがいま、日本や中国発の商品の品揃えを強化し、差別化を図ろうと、アジア各地に倉庫を立ち上げている。

 一般貿易での流通でも、大手EC企業と組んで新規市場への進出を図るケースが増えている。あるグローバルメーカーは、新規市場への進出の際に当該EC企業とExclusive(独占販売)契約を結び、データの取得や物流活用などさまざまなベネフィットを得ている。

 同社は数年前にインド・UAEに進出する際にも、そのスキームを活用し、まずはインド、UAEの当該ECプラットフォームに自社旗艦店を立ち上げてプロモーションを実施。販売データなどを分析しながら勝ち筋を明確化した。そして、ブランドの認知が高まったタイミングでインド法人を立ち上げて卸売業者と契約し、リアルチャネルへと進出したのである。ECを活用することで投資を抑えつつ、スピーディーな市場進出を実現させたというわけだ。このスキームではEC企業側にもメリットがある。一定期間有力ブランドを独占的に販売でき、他プラットフォームと差別化を図れるからだ。このように、EC企業と組んで迅速に新興市場に進出するパターンは今後も増えていくだろう。

 残念なのは、日本企業でここまで成長に向けて世界の有力EC企業を使い倒している事例がないこと。それがいまの日本企業の現実なのだ。