「まず、背景となる経済を分析する。その上で、マーケットに関する予測を行う。これが普通の手順であり王道ではないか」と思われる読者が多いに違いない。確かに、「普通の手順」であることはその通りだ。しかし、「普通」であることと、その手段が「有効」であることとの間には大きな差があるのだ。
経済予測に基づく運用は困難
プロの世界では半ば常識に
まずは世界および各国・地域の経済環境を予測して、株式にせよ為替レートにせよ、マーケットの予測につなげる。これが「自然な」流れだと普通の人は思うだろう。
正直に言うと、筆者自身がファンドマネージャーの仕事について数年たつくらいの頃までは(すなわち20代の大半は)、そのように思っていた。むしろ経済予測を強化することこそ運用を改善する王道だと思っていた。
そう思った理由は、運用に入門したての若手社員だった頃の筆者の強みが、経済の知識が豊富で議論に強いことだったからだろう。1985年のプラザ合意前後の円高や世界の金利低下を予測できていたように感じていたし、88年ごろには日本の資産価格が「バブル」の状態だという強い確信を持っていた。そしてこれらの知見は、筆者自身が担当する資金の運用に何がしか生かされていた。
自分をサンプルとして振り返って思うに、人は自分が力を入れている事柄を重要だと思いがちだ。それに2、3の成功事例が加わると、自分の仮説(=経済分析こそが運用に重要だ)をかなり強く信じてしまうものだ。何と素朴な。
しかし、経済を予測してアセットアロケーション(資産配分)を変更することによって運用パフォーマンスを改善しようとする「マーケットタイミング」を利用するアプローチは、大規模な年金資金の運用などプロの運用の世界では、うまくいかないことが業界内の半ば常識になっている。
例えば、公的年金も企業年金も、「基本ポートフォリオ」などと称するアセットアロケーションを、ほぼ変更せずにじっと維持し続ける運用方法を基本としている。マクロ経済の変化に合わせて配分を大きく変更するような運用はほとんど行われていない。
今回はその理由を詳しく説明しよう。