一つにフォーカスしないと、ビジネスが成り立たない時代に
四角 フォーカスするという発想がない人も多いですね。
本田 ビジネスもそうじゃない? マスマーケティングっていうのはフォーカスしないやり方だけど、昔はそれでよかったんだよね。なぜならばみんな同じ方向を向いてたし、大量生産で成り立つ時代だったから。でも、今は多様性の世の中だから、フォーカスしないやり方は時代に合っていない。
四角 いつぐらいから、フォーカスしないと成り立たない時代になったと感じますか?
本田 2000年超えてからじゃない? インターネットの発達によってみんなマスマーケティングの実態を知ったんだよ。今までは広告で、簡単に言うと洗脳されて買わされていたけれど、自分でさまざまな情報が得られるようになって「ああ、俺はこっちの方が好きだな」と判断できるようになった。
四角 インターネット広告がテレビ広告を抜いたのって、ここ10年ぐらいですよね。そして今、そのインターネット広告を、SNS広告が抜きつつある。もう抜いてるのかな。これって、「フォーカスしないとビジネスが成り立たない」と連動していると思うんです。ターゲット広告がより巧妙になって。
本田 そうだね。ターゲットに対してピンポイントで出している。でも、広告見て買うことはないなあ。仮に買うとしても、調べる。
四角 確かにそうですね。ぼくも広告を見て買うことはほぼないです。
本田 今後はより本格的に、広告が効かなくなってくるんじゃないかなと思って。信頼できる誰か、たとえば大輔が「これいいですよ」と言ったら、仲間はみんな買うよ。
四角 ちなみに読者の方に言っておきたいんですが、本で紹介している商品やサービスは、すべて僕がガチで使ってガチで調べたもので、1円ももらってないですからね(笑)。
本田 わかるよ。広告と紐づけた本だと、すぐばれちゃうから。「これ、お金もらってるな」「好きじゃないのに宣伝してるんだだな」とわかっちゃうと、もう二度と信用してもらえない。
四角 よくSNSで「これを宣伝してほしい」という依頼が来るんですけれど、全部断っています。自分が本当に使っているものしか紹介しないんで、と。
本田 あるよね。まあ使ってみて気に入ったら別にいいけど。
四角 ある意味、広告の原点ともいえる「口コミ」に戻ってきている気がします。インフルエンサーや個人による嘘のない発信を含め、いわゆる広告じゃない情報がどんどん増えているから。
本田 インフルエンサーというカテゴリー自体、そろそろ終わるんじゃないかなと思っているんだよね。大輔もインフルエンサーと言えるかもしれないけれど、他の人とはちょっと違う。インスタでライフスタイルを見せて有名になったわけじゃなくて、哲学を持っているから発信に説得力がある。
その人なりの哲学がないと軽薄に感じてしまい、「この人ちょっと違うな」とすぐに離れちゃうんだよね。だから、フォロワーが異常に多い人に広告宣伝してもらっても、全然効果が出ないこともあるらしい。フォロワーが多くても、エンゲージメントが低い。
四角 そうなってきてますね。間違いなく量より質にシフトしてます。
本田 オンラインサロンをやっていて思うんだけど、オンラインサロンってせいぜい数百人相手じゃん。本やSNSに比べると、受け取る人の数は全然少ない。でも、もはや人数の勝負じゃないと思うんだよね。そこで発信する哲学だったり、考え方だったりのほうが、何百倍もパワーがある。
四角 僕もオンラインサロンを7年やっていますが、SNSのフォロワーよりもオンラインサロンのメンバーのほうが、熱量が何倍も高いですね。
本田 フォロワーが少なくても、ものすごく影響力を持っている人がいるけど、そういう人ってすごくニッチなところにフォーカスしている。2014年に『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』という本を出したんだけど、そんなにヒットはしなかったものの、他の本よりも熱い反応をたくさんもらったのよ。「あの本のおかげで、二ツ星を取れました」とかさ。そういう読者がいっぱいいるわけよ。これってすごいことだなと思って。より多くの人が読めるようなテーマもいいけれど、狭く、深く、刺さることもものすごく大事なんだと気づいた。
四角 「ファンレター理論」と呼んでいる法則があるんです。レコード会社時代、担当アーティストがデビューする前に必ず、「オリコン1位ドーン! みたいなのがいい? それとも、武道館でファンが自分の曲を合唱してくれるようなシーンがいい? もしくは、1通の『この曲に救われました』『人生変えられました』っていうファンレターをもらうの、どれがいい?」って聞いていたんですけれど、3つ目を選ぶアーティストの方がブレイクする可能性は高く、長期にわたって活躍する。とにかく売れたいと思って活動するのと、狭く深く伝えたい想いがあって活動するのとでは、届き方が全然違う。『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』も、そんな本なんだと思うんです。
僕もナオさんも、フォロワーは10万人もいないじゃないですか。でも、僕らのフォロワーって、エンゲージメントがものすごく高い。ナオさんのフォロワーであれば、ナオさんに求めているものが明快な人たちだけがフォローをしていて、オンラインサロンも熱量が高い。なぜならば、僕らの哲学をちゃんと理解して来てくれているからなんですよ。
本田 そうだね。
四角 ナオさんのそのシェフ向けの本も、信念や哲学が伝わってくる。だから届けたい人に届く。これって、別の言い方をすると「ヒットソング理論」なんです。アルバム1枚12曲入りをいきなり提示のではなく、その中から「今の時代はこれだ!」という1曲を切り出して、シングルとして先に出す。それがヒットすれば、その1曲でアルバムも売れる。
本田 確かにそうだね。
四角 1つにフォーカスすると、そこに魂やエネルギーが宿る。「これいいよ」という言葉の、重みが全然違う。
本田 狭く、深く。結局は「超ミニマル」っていうこと。
四角 これについては、本書では「たった1人に届けるピンポイント理論」と「一点突破ヒットの法則」といったメソッドで詳しく解説してます。そして、いろいろなことに手を出して、「マルチタスク」しているとどれも中途半端になる。逆に、シングルタスカーになって狭く深く追求した方が生産性はだんぜん高くなる。実際、欧米の複数の研究でマルチタスクの無意味さが証明されています。結局は、「何か一つ」に集中したり、「誰か一人」に届けようとした方が、高いパフォーマンスを出せるのが人間なんです。非効率な無駄打ちも減らせますし。
本田 そうそう。もう数を打ってもしょうがない時代なんだよなあ。