オートファジーや長寿遺伝子
最も効果的な断食の時間とは

 2016年、「オートファジー」の働きを解明した大隅良典・東京工業大学栄誉教授のノーベル生理学・医学賞受賞は、断食に注目が集まる大きな契機となった。

「オートファジーは、血液中の栄養素が少なくなると細胞中のタンパク質を一度壊して再活用するという働きです。オートファジーによって全身の細胞で若返りが起こるため、認知症の予防やパーキンソン病といった神経変性疾患と呼ばれる病気に対して効果があるとされています」

 オートファジーは、食事による栄養の補給を断つことで働く。また“長寿遺伝子”が活性化するには30~40%摂取カロリーの減少が必要だ、と石原氏は語る。

「2000年にマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授が発見したサーチュイン遺伝子が、長寿遺伝子と呼ばれる遺伝子です。この遺伝子が活性化すると、老化を抑える効果が期待できるとされています」

 断食には、細胞の若返りや長寿につながるなど多くのメリットがありそうだが、それでは、日常に断食を取り入れる場合、断食の時間はどのくらいの長さを目安とすれば良いのだろうか。

「男性のビジネスパーソンを想定すると、12時間以上空けられると良いでしょう。最も望ましいのは16時間近く空けることですが、仕事の付き合いなどで夜の食事を抜くのは難しいという人も多いと思います。そういう人には朝食を野菜ジュースなどに置き換えることを薦めています」

 例えば、夜8時に食事を取り、朝は野菜ジュースを飲む、昼の12時にそばやうどんといった軽めの食事。そして、夜はまた普通の食事を取るという生活リズムが、最も継続しやすいのだそうだ。

「週に1度、朝食を野菜ジュースや具なしのみそ汁などに置き換えるだけでも、断食の効果は期待できます。もちろん、続けられる人は毎朝の食事を置き換えると、より効果が実感できると思いますよ」

 そもそも人間の体は、空腹に対処する機能を備えているのだと石原氏は語る。

「人間の体には、血糖値を上げるホルモンが10種類以上存在しています。例えば、アドレナリン、ノルアドレナリン、甲状腺から出るサイロキシンなどが該当します。ところが、血糖値を下げるホルモンというのは、インスリン一つしかありません。つまり、人間の体は空腹に対応する方法を知っていますが、過食に対処する術をほとんど知らないのです」

 食べ過ぎに適応していない人間にとって、1日3食の食事を取る必要が本当にあるのかどうか、体にかかる負担を考慮して食事内容や回数を見直す必要が出てきているのだ。

 また、断食の効果を実感してより多くの時間をかけて体のメンテナンスを行いたいと感じた場合は、断食を体験できる宿泊施設でじっくり取り組むことも可能だ。

断食コース(7泊8日プラン)ヒポクラティック・サナトリウムの食事メニュー。滞在者は、医師の管理の下で安全に断食を体験することができる。また、断食をしながらゴルフを楽しんだり、マッサージやエステを受けたりすることも可能だ 拡大画像表示

「私が副施設長を務めているヒポクラティック・サナトリウムでは、普段の食事をニンジンとリンゴのジュースやショウガ湯などに置き換えて、数日間の断食体験を行っていただいています。普段から朝の食事を置き換えている人が、年に2回、1週間ほどの断食を行うために訪れる人が多いですね。1日1日をリセットするイメージで、体のメンテナンスを楽しみながら取り組んでいますよ」

 コロナ禍においても、感染対策に配慮しながら運営していたヒポクラティック・サナトリウムは、来訪者が減ることはなかったのだという。石原氏は「テレワークの普及などで生活習慣病を気にする人が増えたのではないか」と話す。