公共インフラについては、自衛隊や海上保安庁のニーズに基づき空港・港湾等の整備や機能強化を行う仕組みを創設するとしており、投資を拡大するようにみえるが、実際にはそうではない。なんと、既存の空港や港湾等の利用等に係る規程の整備を行うというのである。つまり、あくまでも既存のインフラを活用するだけということ。これでは戦う前からこの国を脆弱(ぜいじゃく)のまま放置しておきますと言っているようなものである。もしそのインフラが破壊されたり機能不全にさせられたりしたらどうするつもりなのだろう。この報告書には国防のためのリダンダンシーやレジリエンスの確保といった考え方は欠落しているようだ。それで国が守れると考えているのだろうか。

 極め付きは国際協力に関する内容である。なんと、外国軍隊への資機材供与や外国のインフラ整備等のための「特定安全保障国際支援事業」なる無償資金協力を創設するのだそうだ。我が国の防衛力がまだまだ不十分なところ、そのための防衛費の増額だというのに何を考えているのか。

 経済財政の在り方という項目は、当然のように同報告書にも設けられているが、間違った認識が目立つ。防衛力強化には経済力強化が必要というのは当然だが、財政基盤の強化というのは直接的には関係がない。なぜなら日本はインフレ率の許容する範囲内で国債発行による財政支出ができるからだ。ただし、それは経済力、つまり供給能力が十分であればの話。食料等の国民生活に不可欠な物資の国内での調達が困難となり海外からの輸入に頼らざるを得なくなれば、外国通貨建の国債を発行して外貨を調達しなければならなくなる。まさにレバノン状態である。現在、日本はそうではないので、その必要はないが、現状を維持し、さらに国内供給能力を高めていくには国がしっかりと投資をしなければならない。これは防衛装備品についても同じである。しかし、国際的金融市場の信任だの、海外投資からの資金調達だのと頓珍漢なことが書かれている。要は国内に国がしっかり投資をして供給能力の維持・向上を図る気はないということなのだろう。これでは防衛力強化も何もないではないか。

 そして、防衛費増の財源については、増税と歳出改革なる歳出削減策によるとしている。いずれも国民経済を縮小させることにしかつながらず、困窮する国民をさらに困窮させるもの。それで、貧国化を進めてどうやってこの国を守ろうというのか。戦う前から国を弱体化させるようなものである。まさに貧国弱兵である。

 更にこれを補強するために、日本が戦前、戦費調達のために国債を大量発行して敗戦直後にインフレになったとし、それを教訓として位置付けているが、これも完全な間違いである。敗戦後のインフレは、空襲等によって様々な工場等が破壊されて供給能力が著しく低下していたところに、外地からの兵士の復員や戦後復興のために需要が急増していたこと、更に、占領軍に駐留のための住宅や娯楽施設の整備を命じられて公的需要が一気に高まったこと、つまり供給能力が著しく不足しているところに需要が一気に高まったので高いインフレになったのであって、国債の発行とは何の関係もない。