新型コロナウイルスの感染拡大によって、働き方や人間関係などに大きな変化があった人もいるのではないだろうか。これからどう生きていくのが自分にとって幸せなのか、立ち止まって考えたくなった人にぜひ読んでほしいのが、『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著 藤田麗子訳)だ。読者からは、「1ページ目から涙が出た」「すべての文章が刺さった」「大切な人にプレゼントしたい」との感想が多数寄せられている。歌手、タレントとして活躍中の堀ちえみさんも本書に共感したうちの一人。堀さんはこの本はまさに人生のバイブル。幸せになれる方法がつまっている」と語る。ステージ4の舌がんの治療を終えたあと、さらに食道がんが見つかり、二度にわたるがんの闘病生活を乗り越えた堀さん。来年にはデビュー40周年のライブコンサートも予定している。今回は堀さんに本書の共感したポイントと、闘病前後での子育てに対する意識の変化について話を聞いた(第3回/全3回)。(取材・構成/林えり、文・撮影/ryoco)

堀ちえみ、ステージ4のがんを乗り越えて変わった「母親としての意識」Photo by ryoco

「自己犠牲的な考え」をやめるようになった

――堀さんは子育ての最中に闘病が始まりました。病気を通して、子育てについても考え方が変わったのでしょうか?

堀ちえみ(以下、堀):子どものために、と思ってしまうと、子育てはうまくいかないときがあります。

 子どものためではなくて「すべては自分が望んでやっていること」という意識が大切なのではないかと思うようになりました。

 もちろん子どもの人生は親のものではないので、子どもには幸せに暮らせる術を身につけてもらいたいと思い子育てをしてきました。

 それを「子どものため」だけにフォーカスしてしまうと、そこには自己犠牲的な心が生じてしまいます。

 子育ては子どものためではあるのですが、全部自分が望んで子どもを育てている、という意識を持つことが、上手に子育てをしていく秘訣かもしれません。

――お母さんたちの中には、母親の役割を重荷に感じたり、自分の持てる時間がまったくなくてつらいと思ったりする方ももいらっしゃいますよね。

堀:お母さんがそのように思って子育てをすると、「お母さんは自分のために犠牲になっているのではないか」と子どもが感じてしまうかもしれません。

 また、「あなたを育てるのに大変な思いをしているのよ」と子どもにわからせたほうが、いい子に育つと思っているお母さんもいるかもしれません。

 けれども、自分が生まれたことを親が後悔しているのではないかと思わせることほど、子どもにとって酷なことはないと思います。

 子どものために犠牲になるのではなく、自分がどう生きたいかを見失わないでほしいですね。

『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』でも、自由の大切さをうたっていますが、それは母親であろうと子どもであろうと同じだと思います。

堀ちえみ、ステージ4のがんを乗り越えて変わった「母親としての意識」Photo by ryoco

――ご闘病中は娘さんも堀さんのことが心配だったでしょうね。

堀:娘が16歳のときにわたしのがん闘病が始まり、病気のわたしに心配をかけてはいけないという思いからか、娘はわたしに反抗しなくなりました。

 そこから1年ちょっと経ち、娘にも遅い反抗期が来たなというころに、今度はコロナの感染拡大でステイホームになり、また反抗ができなくなってしまったんです。

 一つ屋根の下で暮らしているので、親にぶつけたくても、それで雰囲気が悪くなると家にいづらくなりますからね。

――娘さんもずっと葛藤されていたんですね。

堀:そうですね。娘も、本当は大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをずっとしてきたようです。

 わたしの闘病やコロナでのステイホームなど、短期間でいろいろんなことがあったのに、いつも明るくふるまう娘を、強い子だと思っていました。

 けれど実際は大丈夫ではなかったということを知ったとき、かわいそうなことをしたなと後悔しました。

 反抗期って言いたいことを言って爆発して学んでいくものだと思うのですが、それを我慢して押し殺していたらメンタルがやられてしまいます。やはり自由に生きることは大切ですね。

 娘が「お母さんは私にどうしてほしい?」と聞くので、「あなたの人生なんだからあなたがしたいようにやってね。お母さんのことは考えなくていいよ」と伝えるようになりました。

 娘にも自分のために生きてほしいですから。

――最後に、大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをしているダイヤモンド・オンライン読者に、メッセージをお願いいたします!

堀:まだ自分は大丈夫だと思っていても、本音では心が悲鳴をあげているかもしれないということを知ってほしいです。

 大丈夫なふりをしても、誰の得にもなりません。

 自分の心が自由になれるように生きていくのが一番です。

 それが本当の優しさにつながったり、大切な誰かの役に立つことにつながったりしていきます。

 ありのままの自分でいることが素晴らしいということを忘れないでくださいね。

堀ちえみ、ステージ4のがんを乗り越えて変わった「母親としての意識」Photo by ryoco
堀ちえみ(ほり・ちえみ)
歌手・タレント
1967年2月15日、大阪府堺市出身。第6回ホリプロタレントスカウトキャラバンで芸能界入りし、1982年3月「潮風の少女」でデビュー。1983年に出演したドラマ「スチュワーデス物語」が日本中で大ヒットし、アイドルとして歌にドラマに活躍。7児の母として、テレビ出演の他、教育や食育にまつわるトークショー、音楽活動など幅広く活動していたが、2019年1月にステージ4の舌がんと診断され、舌の6割以上と、首リンパに転移していた腫瘍を同時に切除する大手術を受ける。その後、リハビリに励んで順調に回復し、2020年1月より仕事に復帰。現在は芸能活動の傍ら、口腔がん撲滅運動に参加するなど、自身の体験をがんの知識の啓蒙に役立てたいと願い、活動の幅を広げている。2022年デビュー40周年を迎え、日々ボイストレーニングやリハビリを行い、2023年に40周年のアニバーサリーコンサートを開催決定。