貧国ニッポン 「弱い円」の呪縛 #2Photo:David Becker/gettyimages, Subhakitnibhat Kewiko/EyeEm/gettyimages

空前の円安で海外事業の利益が膨らみ、過去最高益を更新する大手メーカー。だが、高い利益をたたき出しているトヨタ自動車やコマツを例に従業員の年間平均給与を見ると物足りなさもある。特集『貧国ニッポン 「弱い円」の呪縛』(全13回)の#2では、グローバル戦略を強化してきた日本企業には「国内還元」が容易ではない企業会計上の“落とし穴”を読み解く。企業の内部留保の分配を巡っていくつかの解決策も提示されているが、実現に向けたハードルは高い。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

豊田章男社長が賃上げ報道に“注文”
トヨタ社員の年収はどれほど伸びた!?

 日本の中間層の“衰退”や“消滅”が叫ばれて久しい。こうした国民の長年の課題について、自動車業界トップが問題意識をあらわにする場面があった。

「メディアの皆さんも、年始の賀詞交歓会から『今年の賃上げはどうなりますか』とか、(賃上げ要求への回答額が)満額か満額じゃないかになりますが、(労働組合には加入していない)7~8割の方に声をどう届けるべきか、マスコミ各社もぜひ動き方を変えていただきたい」

「そうしないと格差は広がりますし、日本は中間層をはじめ、働く場を確保していくことが大切だと僕は思うんですよ」

 11月17日、日本自動車工業会の記者会見で、同会会長の豊田章男・トヨタ自動車社長はこう話した。

 豊田社長のこの日の発言によると、新型コロナウイルスの感染拡大で88万人の雇用が減少する中、自動車業界は12万人の雇用を生んだ。また自動車・部品産業は2009年以降、毎年約2.2%の賃上げをしており、全業種平均の約2.0%を上回っているという。「自動車業界は賃上げを継続的にやっている」と強調した。

 もっともトヨタは22年3月期決算で過去最高となる2兆8501億円の最終利益を計上した。

 円相場は今年、1ドル=150円を突破。燃料や生活必需品、食品の値上がりが家計をむしばむ中、大手企業では製造業を中心に最高益が相次ぐ。

 トヨタの23年3月期通期の最終利益は、半導体不足や資源高の影響で前期を下回る2兆3600億円と見込むものの、まだ円安の大きなメリットを享受している。

 トヨタだけではない。日本のグローバル企業の多くが円安の追い風で業績は絶好調だ。例えば、建機大手のコマツの23年3月期の最終利益は2980億円となり、過去最高となる見通しだ。

 ところが、こうしたグローバル企業では業績の急激な伸びに比べると、従業員の年収はそこまで増加していないのが実態だ。だが、それは、単に大手企業が内部留保を積み上げて、従業員への還元を渋っているからではない。むしろ、大手企業が過去に苦しめられた円高を受けてビジネスモデルの転換に励んだ結果として、どれだけ最高益を計上しても、国内の従業員に還元されにくい構造的な問題があるのだ。

 では、円安などを背景に過去最高益をたたき出している日本企業で賃上げが進みにくい構造問題とは。トヨタやコマツを具体例に挙げ、大手企業の最高益が国内に還元されにくい要因を解説する。