【田原総一朗×長野智子×三浦まり】男性9割の同質性の高い企業が10年後もやっていけるか?ビジネスパーソンこそ知っておくべき「クオータ制」Photo by Ryota Horiuchi

ジャーナリストの田原総一朗氏、キャスターの長野智子氏、上智大学の三浦まり教授に集まっていただき、「クオータ制」のメリットや、導入を阻む障壁は何か、日本で導入するための現実的な案などを話し合っていただいた。その模様を前編と後編に分けてお送りする。(進行・構成・文/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)

約130の国や地域が導入する「クオータ制」
新時代のビジネスパーソンにとって重要な理由

「女性を増やせばいいってものではない。女性でも男性でも優秀な人は自然と飛び出てくる」。女性の社会進出の話になると、必ずこうしたコメントが出てくる。あながち間違えてもいない気がするが、どこか引っかかる……。そうした違和感を持つ人は、問題解決の能力が高い人かもしれない。表出している事象の、裏に隠れている問題を察知しようとしているからだ。

 2021年5月、ジャーナリストの田原総一朗氏とキャスターの長野智子氏が、超党派(※党派的な利害をこえて一致協力すること)の女性議員による「クオータ制を実現するための勉強会」を開始。月に1度のペースで、7党の女性議員が集まり、ゲスト講師をまじえながら、「クオータ制」(※1)に関して活発な意見交換を行っている。

※1 「女性割当制」や「ジェンダー・クオータ」、単に「クオータ」とも呼ばれる。「クオータ」(quota)は「割り当て」を意味し、「4分の1」を示すクオーター(quarter)ではない
 

 クオータ制は、社会全体の女性の数に対し、代表者である女性議員の数が、議会において相対的に少ないという問題の改善を目的とした制度である。三浦まり著『ジェンダー・クオータ』(明石書店)によると、クオータ制には、議会選挙立候補者の一定比率を女性(または両性)に割り当てる「候補者割当制」(※2)と、議席の一定数を女性に割り当てる「議席割当制」の2通りの方法があるという。また、クオータ制の実施を全政党に義務付ける「法律型」と、政党が独自に実施する「政党型」のタイプにも分かれる。

※2 「候補者割当制」の場合は、結果的にどの程度の女性議員比率を達成できるかは、制度設計と選挙結果によって異なる
 

 女性議員を増加させる即効性を持つことから、世界で約130の国や地域が何らかの形でクオータ制を導入している。クオータ制の導入に関する動きは日本においても以前から存在したが、その支持は広がらないどころか、クオータ制という言葉もなかなか認知されてこなかった。

 しかし、企業や社会において「多様性」の重要性が叫ばれるようになり、今あらためてクオータ制の導入に注目が集まっている。今回の田原氏、長野氏、三浦氏の鼎談では、クオータ制を切り口に、これまで日本でスルーされてきた知られざる課題も浮き彫りとなった。企業や日本社会全体のこれからに深く関わることでもあるので、前編・後編を通し、ぜひ多くのビジネスパーソンに読んでもらえればと思う。

テレビ業界を離れた長野智子へ
田原総一朗から一本の電話が鳴る

――超党派の女性議員による「クオータ制を実現するための勉強会」を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

【田原総一朗×長野智子×三浦まり】男性9割の同質性の高い企業が10年後もやっていけるか?ビジネスパーソンこそ知っておくべき「クオータ制」田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年、滋賀県生まれ。1960年に早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「城戸又一賞」受賞。早稲田大学特命教授を歴任(2017年3月まで)、現在は「大隈塾」塾頭を務める。「朝まで生テレビ!」「激論!クロスファイア」の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。近著に『人生は天国か、それとも地獄か』(佐藤優氏との共著、白秋社)、『日本という国家 戦前七十七年と戦後七十七年』(御厨貴氏との共著、河出書房新社)など。 Photo by Teppei Hori

田原総一朗(以下、田原) 日本のジェンダー・ギャップ(男女格差)の総合指数は世界でも最低レベル(※3)。特に「経済」の順位は146カ国中121位で、「政治」の順位は146カ国中139位。このようなひどい状況の国は先進国にはありません。

 この状況を何とか打破しなければならないということで、この勉強会が去年(2021年)の5月に始まりました。以降、月に1度のペースで実施しています。

※3 世界経済フォーラムが2022年7月に公表した「The Global Gender Gap Report 2022」によると、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数における日本の総合スコアは146カ国中116位(前回2021年は156カ国中120位)と、先進国やASEAN諸国の中で最低レベルだった
 

長野智子(以下、長野) 私がテレビの業界から離れた時に、田原さんがお疲れ様会を開いてくださったんですね(※長野氏は、田原氏が総合司会を務める討論番組「朝まで生テレビ!」のキャスターを9年間務めている)。

 その時に、これからどうするのかと聞かれて、できれば報道に関わりたいと話をしたんです。すると田原さんは、ジャーナリストをするのであれば、信念や軸を持ちなさいと、おっしゃったんですね。

 田原さんは、言論の自由を守る、二度と日本に戦争をさせない、強い野党をつくるという三つの強い信念を持ってジャーナリストをされていると。軸がないとジャーナリストはできないよ、で、長野さんは何をやりたいの? と、パッと聞かれた時に、この問題が頭の中を横切ったんです。

 長い間、ニュース番組のキャスターとしてメディアに関わってきて、「日本の政治家は男性ばかりで、『女性活躍』という割には現実の環境整備が進まないのはなぜか」という疑問が自分の中で常にあり、それがすごく大きなものになっていたんです。

 ジャーナリストとしての軸を持つならば、「女性の国会議員を増やしたい」ですと、田原さんにお伝えしたところ、「それはとても大事なことだ。まずは勉強会をやったらいいじゃない。僕が議員を紹介するから」と言ってくださいました。

「え、本当かな?」とその時は思ったのですが、何カ月かたって田原さんからお電話がきたんです。