どうしてこの人が公認なのか?
選挙制度の「ブラックボックス」

長野さん長野智子(ながの・ともこ)
アメリカ合衆国ニュージャージー州出身。上智大学 外国語学部英語学科卒。1985年、(株)フジテレビジョン アナウンス部に入社。1995年の秋より、夫のアメリカ赴任に伴い渡米。ニューヨーク大学・大学院において「メディア環境学」を専攻し、人間あるいは歴史に対して及ぼすメディアの影響について研究した。1999年5月修士課程を修了。2000年4月より「ザ・スクープ」(テレビ朝日系)のキャスターとなる。「朝まで生テレビ!」「ザ・スクープスペシャル」「報道ステーション」「サンデーステーション」のキャスターなどを経て、現在は自らも国内外の現場へ取材に出る傍ら、国連UNHCR協会報道ディレクターも務める。 Photo by Ryota Horiuchi

長野 田原さんが司会を務める番組(※BS朝日「激論!クロスファイア」で、野田聖子(自民党、衆議院議員)さん、辻元清美(立憲民主党、参議院議員)さん、矢田わか子(国民民主党、前参議院議員)さんをゲストに迎えて、日本のジャンダー・ギャップについて話し合うことになったので、長野さん、彼女らに話してみるといいよということでご紹介くださり、そこからこの勉強会を毎月、行うことになりました。

 一方で、これまでも多くの議員が、本当に長いこと、女性議員を増やそうと取り組んでいらっしゃいます。それでもいまだに日本のジャンダー・ギャップ指数は低く、とりわけ「政治」の分野は146カ国中139位です。

 なぜこれほどまでに変わらないのだろう、議員が動いてもなかなか変わらないのであれば、世論に動いてもらう方法はないだろうか――。その中で私にできることは、勉強会にメディアにも参加してもらって、世論への発信を増やしていくことではないだろうかと考えました。

 ですので、勉強会が発足して以来、この勉強会は常にオープンで行っており、毎回、多くのメディアのかたが取材や見学に来てくださっています。

 こうしたテーマというのは、女性だけで議論していても、男性やメディアはほとんど関心を持ってくれないんですよ。でも田原さんが座長として加わってくださっていることで、「田原総一朗氏はなぜ女性議員の勉強会に毎回、顔を出しているのだろう、勉強会ではどのようなことが話し合われているのだろうか」と、メディアも注目してくれます。

田原 日本のジェンダー・ギャップ指数、とりわけ政治に関しては、なぜこんなに低いのですか?

三浦先生三浦まり(みうら・まり)
カリフォルニア大学バークレー校政治学博士課程修了。Ph.D.(政治学)。東京大学社会科学研究所機関研究員を経て、上智大学法学部教授。専門はジェンダーと政治、福祉国家論、ケアと民主主義論。意思決定における多様性を確保するために、女性やマイノリティの政治参画やクオータ制の研究などを行っている。著書に『さらば、男性政治』(岩波新書、2023年1月刊行)、『ジェンダー・クオータ―世界の女性議員はなぜ増えたのか』(共著、明石書店)、『日本の女性議員』(朝日新聞出版)など。 Photo by Ryota Horiuchi

三浦まり(以下、三浦) そうですね、あまりに低いですね。他の国は真剣に、ジェンダー・ギャップ解消に向けて取り組んできました。でも日本は本当に、時が止まってしまったかのような感じですよね。

田原 特に衆議院がひどい。

三浦 参議院のほうは今、世界平均と同じ25%強ですから、特に遅れてるわけではないんです。やはり衆議院が問題で、衆議院の女性議員の数は約10%です。

 これは、小選挙区を中心とした選挙制度であることが原因です。また、日本は政権交代がめったにないことも要因です。どの国もやはり現職が落選するタイミングで、新人がたくさん入ってきます。そうすると、女性も入れるんですね。でも日本は2012年以降、ずっと自民党が政権を担っているので、そうしたダイナミズムが働かない。

 自民党をはじめ主要政党では、現職優先で公認を出します。政権交代がないので新陳代謝が悪く、いつも同じ人が候補者に選ばれることになってしまっています。

 そもそも、「どうしてこの候補者が公認を取ったのか」ということが不透明なんですね。政治学ではよく「秘密の花園」と言われていて、ブラックボックスなんです。有権者もメディアも、「どうしてこの人が公認なのか?」ということをあまり疑問視してこなかった。

 自民党の議員が引退した時にようやく新人が入れることになるのですが、そこにも女性は半分も入れてもらっていません。新陳代謝がほとんど効かない。そこが問題なんです。

田原 議員、特に自民党の場合、世襲が多いですね。

三浦 そうですね。世襲議員はやっぱり当選しやすいですよね。父親のネームバリューがあるし、支持基盤もあるから、ある意味、世襲を公認するのは合理的な行動ではあります。ただ、世襲のかたが、政治家として本当に優れた人なのかということを、やはり政党はきちんと説明しなければいけないのですが、そういう努力を怠ってきたと思うんですね。「選挙に当選しやすい」ということで、安易に擁立をしてきてしまっており、世論もそれがあたかも常識のようになってしまっています。

 また、女性を国会議員に擁立しようと思っても、都道府県議会に女性が少ないこともネックになっています。男性の国会議員の前職は地方議員が一番多いのですが、女性は地方議会にも少ないのです。

 こうした状況下、日本のようにここまで遅れてしまった場合は、クオータ制を導入するという起爆剤がないと、政党が変わっていくことが難しいんじゃないかと思います。

田原 クオータ制を導入して女性議員が増加していったのは、例えばフランスですか?

三浦 フランスもそうですし、ラテンアメリカの国々もそうです。すでに約130カ国が実施しています。クオータ制を導入すると早く変わることができるので、日本でも取り入れるべきだと考えています。

田原 クオータ制を実施しない政党は法律で罰する、たとえば、女性議員を3分の1以上にしないと政党交付金を減らす、といった罰則をつくったほうがいいですか?