政界の流動性を高める仕組みを
企業や社会で構築する必要がある

田原さんPhoto by Ryota Horiuchi

三浦 それはやったほうが、政党は動くと思います。

長野 候補者男女均等法(※4)がありますが、努力義務にとどまっています。

※4 国会や地方議会の選挙で男女の候補者数を「できる限り均等」にするよう政党や政治団体に求めた法律。2018年5月に公布、施行され、2021年に改正法が成立している
 

三浦 そうですね。数値目標が努力義務で、罰則もないため拘束力が弱い。

長野 義務化されなかったのは、やはり自民党の反対が強かったのでしょうか?

三浦 自民党も日本維新の会も反対していました。自民党は大きな政党なので、中には賛成している議員も結構いるんですけれど、コンセンサスを通すのが前提なので、部会で反対する人たちの声が大きければ、通すことは難しいようです。

――反対する理由は何でしょうか?

三浦 それは自分の議席が失われるからですよ。やはりクオータ制の仕組みによっては、今まで「復活当選」できていた人が、それができなくなる。選挙区の事情でそれがリアルにわかってしまうんです。

田原 既得権益を守りたいんだよね。

長野 日本の今の小選挙区制度が、クオータ制と合わないという問題もありますよね。

三浦 それは比例の方が入りやすいですね。とはいえ、小選挙区においても実施は可能です。クオータ制への抵抗を減らしていくためにも、日本の政治家の新陳代謝の遅さをどうにかしないといけないと思います。

 ラテンアメリカ諸国では1期だけとか2期だけの任期制限が普通ですが、日本は多選禁止がなく、何期もやるのが普通です。落選した場合、その後のキャリアが見えない。見えないからもう権力かそのポストにしがみつくしかない。そのような構造になってしまっているんですね。

 ですから、もっといろいろな人が政治家になって辞めていくような流れ、たとえば、地方議員だった人が、国会議員になった後、都道府県の知事や市町村の長になっていく、といった、政界の流動性を高めていくという、大きなプロジェクトの中にクオータ制を入れていくことが、成功の秘訣だと思うんですね。

 あと、私たちの社会の中で、元議員さんだった人を、受け入れるようにしなければいけない。やはり自分の人生の一時期を使って、社会のために貢献してきたので、いろいろな事情で辞めたかたを、また社会で受け入れる。議員としての知識があれば、NPOを作ったり、スタートアップ事業を始めたり、いろいろなことができると思うんです。そういうところでエネルギーを使ってもらいたい。

 議員を辞めても自分なりのいいキャリアが築けるということにならないと、自分のポストを脅かそうとする人に徹底抗戦し、クオータ制も断固反対となってしまいます。

 日本の政治家は、「先生、先生」と持ち上げられて、すごく威張っていたりする場合があるわけです。そういう人が議員を辞めたあとに企業や組織に入ったとしても、周囲は使いづらいと感じてしまうかもしれません。だとすると、結果的に新陳代謝を妨げてしまっている。だから、政治家を先生と呼ぶ文化もあまりよくないですよね。

長野 本当にそうですね。あと、やはり若い人たちは、リボルビングドア(※回転式のドア。転じて、官民を行き来するキャリアパスをさす)というか、企業側が「ちょっと政治家やってみたあと、戻ってきてもいいよ」くらいになるといいですね。

2人Photo by Ryota Horiuchi

田原 例えば大学の教員は、選挙に出て落選したら戻れるのでしょうか。

三浦 大学の先生は恐らく問題ないと思いますが、高校までの先生は現状、厳しいかもしれません。

 民間企業もそうですが、法律で「立候補休職制度」のようなものを作って、選挙期間中は休職を認める、落選したら戻ってくるのを保障する、そういった制度があれば選挙に出やすいですが、今はそうなっておらず、キャリアに関しても家庭に関しても大きなリスクをとって選挙に出ないといけないので、そうなるとやはり、人材のプールは小さくなってしまいます。

 JAXAで長年、宇宙開発に携われていた(参議院議員の)水野素子さんは、JAXAの立候補休職制度を利用し、身分を保障されたまま選挙に出ていましたよね。2回落選されていますが、JAXAはきちんと受け入れています。そうした組織もありますが、おそらく多くの組織ではそれを良しとしないところは多いと思いますので、そこは法律で決めるべきではないでしょうか。

――女性議員や若手議員を増やし、政治を活性化させるためには、カジュアルに政治家を目指せるような仕組みも、企業や社会で構築していく必要があるということですね。

三浦 必要ですね。政治家になったその働きがまた社会に還元されますし、還元されるような働きをきちんと議会でやってるのかという、監視も高まりますよね。

田原 企業の幹部にも女性は少ないですね。子育ては奥さんの役割だと思っている男性がまだまだ多い。欧米ではもっと意識改革が進んでおり、子育ては夫も妻もどちらもするものであり、それを政府がバックアップする仕組みがあります。

三浦 日本の保育園は、それなりに制度は充実しているほうなのですが、日本はその後の教育費が高いですよね。高校や大学の学費や諸経費が高いために、子どもを持つことを諦めざるを得ない人もいると思います。

 先ほどのジャンダー・ギャップ指数でいうと、「教育」に関しては日本の順位は高いですよね。でも実際の教育現場では、ジェンダー・ギャップがとても大きい。先進国の中でも一番、ジェンダー・ギャップがある。女性の教育の機会が、男性と比べると限られている国なんです。大学への進学率も女性のほうが低く、短大を入れると15ポイントくらい、差が開いてしまっています。難関大学に絞ると、女性は3割です。

田原 東大は2割ですね。

三浦 はい。大学院となるとさらに女性の割合が減ってしまう。国や企業の将来のリーダーというのは、いろいろなタイプのリーダーがいるので、必ずしも学歴がすべてではないのですが、社会進出のスタート地点である教育のチャンス自体が、そもそも男女平等ではないんですね。そこを日本社会は気づいていないというか、無視をしている現状があります。

長野 なぜ大学は女性が少ないのでしょうか?