同質的な発想の中で意思決定を続けるか
多様性を取り入れてビジネスの幅を広げるか

三浦 親が、女の子には男の子ほどの教育はいらないと思っているからですね。男の子には浪人させてでも大学に行かせようとします。首都圏や関西の都市部に男の子を送りますが、女の子の場合は家から通えるところを選ばせようとします。

田原 女性が浪人しにくいんだ。

三浦 親がさせてくれないんです。家庭内での経済格差もあるんですね。

長野 以前、大手商社の丸紅の柿木真澄社長にインタビューをしたんです。丸紅は、新卒総合職の採用に占める女性比率を2024年までに4〜5割にするという数値目標を公表しています。公表前は、総合職は男性が9割だったそうです。そこから、新卒の男女比をほぼ同じにするというのを、数字を出して宣言するというのはすごいなと思って、お話を聞きに行ったんです。

 柿木氏が若かったころ、日本経済が右肩上がりで成長していた日本というのは、マッチョな仕事、「エイッ」と物をこっちからこっちへ移動する、そうした機動力を争うような仕事が多かったので、男性が多いのは、当時は合っていたかもしれない。

2人Photo by Ryota Horiuchi

 でもそれから時代がずっと変わってきて、ニーズがどんどん多様化してきて、今や顧客自身が何を欲しいのかさえ、わからないことがあると。むしろ顧客ごとに多様な選択肢を提供してカスマイズする時代になってきたのだといいます。

 そのような中、男性9割の同質性の高い会社で、新しいビジネスを開拓できるだろうかと、危機感を持ったそうなんですね。

 もしかしたら今やっているビジネスは、10年後にはなくなってしまうかもしれない。であれば今から組織に多様性を入れることによって、ビジネスの幅を広げるべきだ、そう考えて今回、その決断をしたといいます。

 柿木氏の肩を押したものがフェムテックです。数年前に、女性社員からフェムテックの話を聞いた時はピンとこなかったそうですが、それからあっという間に市場が伸び始め、2025年には世界のフェムテック市場は5兆円規模にまで成長するといわれるほどにまでなった(参考:2022.7.19「女性の健康問題を解決「フェムテック市場」が急拡大、その背景とは?」)。それで柿木氏は、これだ、というふうに思われた。

 その話を聞いた時に、絶対、国の政策もそうだよなって思ったんです。国の政策を決める国会議員にも多様性を入れないと、いつまでたっても同じ場所で足踏みです。人口減少によって、女性を労働力として期待する一方で、女性が働きやすい環境の整備は進んでいない。もし国会議員に女性が増えれば、さまざまなニーズが政策に反映されますよね。

 今は昭和とは違い、デジタルトランスフォーメーションの時代です。働き方を工夫する方法は無限にあります。クオータ制の導入は、今の日本が抱えてる閉塞感をぶち壊す起爆剤になるはずだと思って、この勉強会を始めたんです。

3人Photo by Ryota Horiuchi

女性を優遇するのではない
男性と女性のパイをまずはフェアにする

三浦 もはやジェンダーしか日本再生の鍵はないと思いますね。日本の企業はどこももう力を失ってしまっています。おっしゃったように、同質的な発想の中で意思決定をしてきたからです。世界は多様性の中から新しい価値を生み出すことをやってきたのに、日本はそれと真逆のことをやってきた。だから稼げないし、食べていくことが難しい社会になってきてしまった。

 となると、まずは組織に女性を入れ、同質性を破ることが日本再生の早道だと思います。女性だけでなく、男性の中の多様性や、女性の中の多様性、LGBTQ、地域や国籍などさまざまな多様性を目指す必要があります。そこに行き着くには、まずは男性ばかりの現状を打破しないといけない。ジェンダーを変革の鍵にする。日本が変わっていけるとしたら、そこしかないのではないかなと思っています。

長野 まさにその通りですね。こうしたジェンダー・ギャップの話になると、「女にげたを履かせる」みたいな話になってしまいがちです。丸紅の柿木氏がおっしゃっていましたが、女性の新卒総合職を5割までもっていくという話をした時、「なぜ女性ばかりを優遇するのか」と、反対する幹部もいたと。その時、柿木氏は、女性にげたを履かせるのではなく、そもそもフェアではなかった環境を整えるのだと説明したそうです。

 東京医科大の入試問題(※東京医科大の入試の時に、女性の受験生の点数を一律で減点するなどした不正)もありましたが、女性はそもそも入り口から閉ざされてしまっている。閉ざされてあきらめてしまっている部分がある。そこをまずはフェアにしましょうと。そういう時期にきているのではないかと思います。

 ですから、先ほど田原さんが指摘された、企業の幹部に女性が少ない、なんでもっと企業は女性を重用しないのか、というのは、やはりそもそものパイが少ないんです。女性の採用が少なすぎて。

 今回一番、私が言いたかったことは、こうしたジェンダー・ギャップの話になると、「頭の良い女性を連れてこい」とか「行動力のある女性を連れてこい」とか「能力のある女性は自然と用いられる」とか、そういった声が必ず出てきます。

 でも、男性も多様ですし、女性も多様です。行動力のある男性もいれば、そうでない男性もいる。女性も同じです。でも今は男性のほうがパイが大きい。パイが大きければ、その中から幹部候補が生まれやすくなるのは当然です。これからは女性のパイも増やし、男性も女性もパイをフェアにした上で、その中から優秀な人が幹部になっていく、これが自然な流れだと思うんです。

クオータ制の導入は
日本社会のシステム全体を見直す起爆剤になる

三浦 能力の評価基準が変わったわけですよね。以前のように、同じ方向へ勢いよく向かうのであれば、機動力や突破力を持った男性9割の組織のほうが適していたかもしれませんが、新しい価値観を生み出したり、顧客の多様なニーズを的確に捉えることを目指すならば、これまでとは違うタイプの能力が必要になってきます。ですので、女性のプールを広げるというのは、本当は男性の生き方も多様になっていくということだと思います。

 クオータ制を入れると、子育ての問題を含め、最初はいろいろと無理があると思うんですね。さまざまな課題が表出して、当然、面倒なことは起こるわけですが、それに合わせて文化を変えよう、システムを変えようと、急速に環境整備が進むんですよね。つまり、クオータ制の導入は、日本社会のシステム全体を見直すためのきっかけになると思います。

 一方で、クオータ制によって登用された人たちだけにすべて押し付けて、周囲は一切、変わらない、環境整備を何もしない。こうなると、登用された女性はものすごい負担がかかります。登用された人が能力を発揮する場合もあれば、そうでない場合ももちろんある。それは男性とまったく一緒です。でももし失敗すると、「やはり女性には無理だったんだ」「クオータなんて数値目標をやるから、能力のない女性が就いてだめになったんだ」と総括されて終わってしまう。これがだめなクオータ制の使いかたですね。

 きちんとしたクオータ制の使いかたは、「今までの文化やシステムを変えるためにやるのだ」と位置づけることです。クオータ制で女性の参入を容易にしつつ、今、女性に負担がかかっていることをどうすれば周りでカバーできるか、企業文化や組織文化を変えていく環境整備をどれだけ早く行えるか、こうしたことが変革のポイントになってくると思いますね。