優秀な若者たちがIT業界を志すのは、新しい業界ゆえにカーストの縛りがないことが大きい。そのため、中下層カーストの人々にとって固定化した社会の階段を駆け上がるチャンスもあるのだ。
インド工科大学には、IT業界を目指す若者がインド各地から集まってくる。抜群のレベルの高さを誇り、世界的に見ても最難関の高等教育機関のひとつとされる。卒業後は渡米して大学院に進み、そのまま米国のIT業界に入る人も多い。
彼らがめきめきと頭角を現し、近年ではグーグル、マイクロソフト、IBM、アドビ、ツイッターなど米国のIT大手でインド出身者のCEO(最高経営責任者)が続々と誕生している。そしてインド出身のハイテク人材のネットワークが、世界に張り巡らされている。
経済格差が固定化され
経済成長の妨げとなる懸念も
インドでは1950年にカースト制度による差別が憲法で禁止された。しかし、それはカースト制度そのものを禁ずるものではない。ヒンドゥー教の信仰と密接に結びついて切り離せないうえ、ヒンドゥー教徒は国民の約8割という圧倒的多数を占め、モディ首相のもと、ヒンドゥー色は強まる一方だ。
これまでは、カースト制度があるからこそ下層階級の人々も職につき、低賃金ながら稼ぐことができるプラス面があるともいわれた。だが、それでは激しい経済格差は固定化されたままで、貧困にあえぐ人々は救われない。細かく仕事を分ける制度ではマイナス面も多く、経済成長の妨げになっているという意見も多い。カーストの縛りから脱するため、あえて仏教やキリスト教に改宗する人も増えている。
一方では、ヒンドゥー教には優秀な子どもを積極的に援助するさまざまな仕組みもある。カースト枠外の最下層ダリットから大統領になった人物は二人おり、モディ首相も駅でチャイを売る下層カースト出身といわれる。インドのさらなる発展に向けての模索も続いている。