アメリカ・ヨーロッパ・中東・インドなど世界で活躍するビジネスパーソンには、現地の人々と正しくコミュニケーションするための「宗教の知識」が必要だ。しかし、日本人ビジネスパーソンが十分な宗教の知識を持っているとは言えず、自分では知らないうちに失敗を重ねていることも多いという。本連載では、世界94カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)の内容から、ビジネスパーソンが世界で戦うために欠かせない宗教の知識をお伝えしていく。

ヒンドゥー教徒と仕事をする時、カーストは話題にしていいのか?Photo: Adobe Stock

「ヴァルナ」と「ジャーティ」

 「カースト」とは、階層を意味するポルトガル語。インドのサンスクリット語にカーストという言葉はありません。「ヴァルナ」という四つの身分と「ジャーティ」という細かい身分の区別があり、その二つを合わせて西欧の人々が「カースト制度」と呼んでいるのです。

 よく知られている四つのヴァルナは、バラモン(司祭)、クシャトリア(王族、軍人)、ヴァイシャ(平民)、シュードラ(隷属民)です。さらにシュードラの下には「ダリット」というカーストを持たないカースト制度の外に位置づけられる最下層身分の人々がいます。

 アウトカースト、アンタッチャブルなど多様な言い方がありますが、ダリットという言い方が一番差別的な響きがないようで、最近の英語メディアなどではダリットという表現が増えています。バラモンがトップですが、クシャトリアが事実上の実権を握った歴史があり、今もエリートや富裕層などにクシャトリアは多くいます。

 「ジャーティ」には細かな分類があり、その人がどんな職業に就くべきかが定められています。なんと二〇〇〇から三〇〇〇種類あるというのですから、驚くべき細かさです。ヒンドゥー教徒の人間関係はジャーティのなかにあり、人づき合いも婚姻も原則としてこのなかで行われてきたのです。