リスクを見落とし、宴に酔った多くの投資家
それでも投資詐欺は繰り返される。人々は、時として高い成長への期待にとりつかれ、リスクを見落としがちだ。一例として1720年、イギリスで起きた「南海泡沫事件(サウス・シー・バブル)」は有名だ。1711年に設立された南海会社(ザ・サウス・シー・カンパニー)は中南米貿易や金融事業によって高い成長を実現すると期待された。その結果、株価は急騰した。
しかし、期待されたほどの成長は実現できず、売りが売りを呼んで株価は急落した。加えて、同社が事業運営の便宜を得るために、政治家に賄賂を渡していたことも発覚した。こうして南海会社の株価急騰と暴落は投資詐欺に発展した。なお、科学者のアイザック・ニュートンが南海泡沫事件に巻き込まれ、巨額損失に直面したことも後世に伝えられている。
過剰に自社の成長期待を高め、結果的に投資家を欺いたという点で、FTXは古典的な事例といえる。また別の例として、血液検査会社セラノス創業者のエリザベス・ホームズ氏による詐欺事件も記憶に新しい。ホームズ氏は、指先から数滴の血液を採取し検査することでさまざまな疾患の有無を判断できると説明し、一時、セラノスの企業価値は急騰した。しかし、同社の事業運営も実体を伴っていなかった。
投資ファンドや年金基金は、バンクマン-フリード氏の資質を見抜けなかった。その背景には、FTXへの成長期待の高まりを抑えることができず、われ先に資金を投じようとする過剰な強気心理があったはずだ。
具体的には、複数の知人が投資し始めたから自分もそれに乗ってみようという群集心理、政治献金をしているから立派な経営者だと直感的に思ってしまう「初頭効果」などが考えられる。その結果、乗り遅れてはならないという切迫感が高まり、FTXに資金を投じたり、サービスを利用したりする人が増えた。いずれも、過去の投資詐欺と共通する。