仏教・イスラムなどの信仰を持つ在日外国人と
どのように宗教的融和を進めるか

 東南アジア出身者の一部でひそかに広がる「大仏ブーム」は、在日外国人の増加を反映した新しい潮流の先駆けと見なすこともできるかもしれない。2022年6月時点で、在日ベトナム人は47万人を突破し、政情不安から在留許可が出されるようになってきた在日ミャンマー人も4万8000人近くに達している。

 在日外国人は、それぞれに母国で信仰を持っている。彼らとどのように宗教的融和を進めるのかという問題は、今後重要になってきそうだ。例えば、直近ではイスラム教徒の多い在日インドネシア人の増加率が国別でトップとなっている一方で、大分ではムスリム墓地設置の是非をめぐり、地元で論争が続いている。ベトナム人尼僧のティック・タム・チーさんが各地で開くお寺が在日ベトナム人技能実習生や留学生にとって本当の意味での「駆け込み寺」になっていることもよく知られる。

 また、前出の大澤氏は日本人の間にも上座部仏教の考え方が宗教を削ぎ落とした形で伝わり出していると指摘する。近年ビジネス界で話題のマインドフルネスは、実は東南アジア仏教の瞑想(めいそう)法に由来するものだ。

 日本の仏教界は保守的で、東南アジアの仏教徒を積極的に受け入れているお寺は少ない。ただ、仏教を通じたさらなる交流の可能性や、お寺の機能に注目した在日外国人の受け入れ体制拡充などの可能性はこれから広がりそうだ。

 故郷から遠く離れた日本で暮らすベトナム人やミャンマー人が、仏教つながりで日本の大仏情報をシェアしている。日本での認知度や人気とは関係なく、彼らの仏教で馴染みが深い涅槃仏が特に人気がある。日本の正月休みには大仏に集まり、普段の仕事や学業を忘れて、ちょっとした観光気分で“映える”写真を撮って楽しんでいる――「ベトナム人が大仏に集合している」という驚きから始まった取材は、意外な話に着地した。今日、あなたの家の近所でも、そんな光景が繰り広げられるかもしれない。