「老後2000万円問題」が話題となり、老後資金を貯めることに、これまで以上に力を入れている人も多いのではないだろうか。しかし、そんなリタイア後の資金計画を阻むものがある。今、ニュースなどでも日々話題に上がる「インフレ」だ。インフレは当然、老後の資金計画にも大きく響いてくる。この問題に対して、30代でFIREを成し遂げた『FIRE 最強の早期リタイア術』の著者クリスティー・シェンとブライス・リャンは、ある解決策を提示する。その方法とは一体何か。本記事では、本書の内容を元に、インフレ対策についてご紹介する。(構成:神代裕子)

FIRE 最強の早期リタイア術Photo: Adobe Stock

インフレで崩れる老後資金の計画

「一体いくら貯蓄があれば、安心して老後が過ごせるのだろうか」。

 これは、実に多くの人を悩ませる大きな問題だ。

 日本では2019年6月に金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループによる報告書「高齢社会における資産形成・管理」から、「老後は2000万円が必要だ」と報じられて騒ぎになった。

 この騒ぎをきっかけに、より一層「老後の資金をしっかり貯めなければ」と決意を新たにした人も多いのではないだろうか。

 しかし、近年はインフレが進み、「生活が苦しくなった」との声もよく聞く。

 インフレは、生活費だけでなく老後資金にとっても大敵だ。

 貯蓄率が下がるだけでなく、「物価が上がる=お金の価値が下がる」ことなので、今貯めているお金の価値が、将来的には下がってしまうかもしれないからだ。

 今まで考えていた額よりも、もっと多額の老後資金が必要になる可能性は大いにある。

FIREするにもインフレは大敵

『FIRE 最強の早期リタイア術』の著者クリスティー・シェンとブライス・リャンは、30代という若さでFIREを実現した夫婦である。

 FIREとは、「Financial Independence, Retire Early」の略称で、「経済的自立」と「早期リタイヤ」を意味している。

 彼らは、インデックス投資で資産形成をして、その資産から得られる「4パーセントの利益を毎年取り崩しながら生活する方法」を取っている。

 もちろん、これは大人2人が1年間働かずに暮らせる生活費を、毎年利益として生み出せるだけの資産がないと実現しない話ではある。

 彼らがFIREできるだけの資産を、具体的にどのように築いていったかは本書に譲ろう。ただ、それだけの資産を持っている彼らにとっても、インフレは大きな問題なのである。

 なぜなら、投資のリターンが生活費の上昇に追いつかなければ、リタイア計画が頓挫してしまうからだ。

 しかし、クリスティーはきちんとインフレ対策を立ててFIREした。その方法は一体どのようなものなのだろうか。

歳を取っても株式への投資を続ける

 これまでの一般的なリタイアメント・プランニングは次のようなものだ。

若いときは株式に重点的に投資し、歳を取るにつれて徐々にアロケーションを債券などのフィクスト・インカムに移行するというのがリタイアメント・プランニングのこれまでの定説でした。(P.231)

 フィクスト・インカムとは、確定利付き投資のことで、代表的なものには「債券投資」がある。

 つまりこれまでは、歳を重ねるとリターンが大きい株式から、リターンは少ないが堅実な債券に移行していくことで、老後の資金を守っていたのだ。

 しかし、インフレの世界ではこれがリスクとなると考えたクリスティーは、「私のポートフォリオはフィクスト・インカム中心のアロケーションには移行しない」と語る。

 リタイア後も一貫して株式に投資し続けることで、自然とインフレに対するヘッジができている、というのだ。

 その理由は、次の通りだ。

つまりこういうことです。企業は消費者に財を売ります。インフレによって消費者が企業の財に払う金額が上がれば(あの1杯のコーヒーのように)、企業の稼ぎも増えることになります。ほかの条件がすべて同じなら、インフレは企業の利益に反映され、それが株価の上昇に反映され、最後にはあなたのポートフォリオに反映されることになります。株式に投資すれば、ポートフォリオの価値はインフレと足並みをそろえて上昇していくのです。(P.231-232)

 株式から債券に切り替えてしまうと、インフレのメリットを享受できないということなのだろう。

 ウクライナ危機以降、世界的にインフレが激しくなっている。自給率が低い日本においては、今後も物価の上昇は続く可能性が高い。

 そう考えると、今後は歳を重ねてからも、株式への投資を続ける方が良いのかもしれない。

インフレ率の低い都市で暮らす

 クリスティーは、もう一つ、インフレ対策としてある方法を提案している。

 それは、インフレ率が低い国で暮らすことだ。

 確かに、インフレ率は世界共通ではない。住む場所によって大きく変わる。

米国で公表されるインフレ率は、米国だけに当てはまる事象です。ポルトガルや南アフリカ、香港、日本などで起きているインフレとは完全に無関係です。インフレは州ごとに異なることもあります。中央銀行が発表するインフレ率は国内の平均であり、インフレ率が平均を上まわる州もあれば、下まわる州もあります。(中略)リタイアした後は職場への通勤が必要なくなるため、自由に都市を移動できるようになります。インフレ自体はコントロールできない要因で起こりますが、あなたがそれに対して受け身である必要はなくなるのです。(P.232)

 もしも、今住んでいる都市では生活費の上昇ペースが早すぎるようであれば、安く生活できる国へ旅するのもいい。

 そこまでのことができなければ、インフレ率が今の都市よりも低いところへ引っ越せばいい。

 クリスティーはそう提案している。

インフレ率をコントロールして資産を守る

 皮肉にも、新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの業務にオンライン化を一気にもたらした。

 リタイアはしていないけれど、すでに通勤はほとんどしていないという人も少なくないだろう。

 筆者もオンライン化が進んだことと、フリーランスになったことが重なって、どこででも暮らせる立場になった。実際、旅をしながら仕事をすることもある。

 そういった状況を考えると、生活費のかさむ都会から田舎へ引っ越すだけでも、大いにインフレ対策になるはずだ。

 日々の生活費を抑えるためにも、老後の資金をしっかり蓄えるためにも、クリスティーのアドバイスを参考にして、自分にできるインフレ対策を取ってみてはいかがだろうか。