変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。同書から抜粋している本連載の書下ろし特別編をお届けする。

「イノベーションを起こせる企業」と「淘汰されてしまう企業」の決定的な違いとは?Photo: Adobe Stock

グローバルに活躍する多くの日本企業

 日経平均の下落や新型コロナウィルスの新たな感染者数が複数の県で過去最多を更新したなどのニュースが舞い込み、新年早々憂鬱な気分になっている方も多いのではないでしょうか。

 日本は過去30年間GDPが伸びず、平均給与も上昇していません。また、少子高齢化によって労働力人口も減り続けています。このような客観的事実のみを捉えると、確かに日本の未来は暗いと言わざるを得ないのかもしれません。

 しかし、海外では多くの日本企業が活躍し、存在感を示しています。例えば、私が住むシンガポールでは、ユニクロ、ダイソーそしてドン・キホーテが、ショッピングモールの定番コンテンツとなっています。

イオンが導入した『レジゴー』というイノベーション

 アジアで30店舗以上を展開して存在感を発揮している企業の一つに、イオングループ(イオン)があります。イオンは約15年前からアジアへの出店を開始し、徹底したローカライズによって今や住民の生活の一部となっています。

 年末年始に日本に一時帰国した際に、イオンのイノベーション創出力の一端を垣間見ました。イオンの一部国内店舗では、『レジゴー』という画期的なサービスを導入しています。消費者が店舗に設置されているレジゴー専用スマホや専用アプリをダウンロードした自身のスマホを使って、買い物カゴに商品を入れる際にバーコードをスキャンし、最後にレジゴー専用精算機で決済を済ませることで、レジでの会計がスムーズにできるというサービスです。

 レジゴーは、買い物カゴに入れた商品を一旦取り出してバーコードをスキャンするというレジで一元的に処理されていた工程を、消費者が買い物カゴに入れる際に自分で都度バーコードをスキャンする形に分散化しています。結果、レジでは決済のみ実施すれば良いので、レジでの所要時間が大幅に省略されています。

ローカル市場の特性を生かしてイノベーションを起こす

 これまで国内外のスーパーマーケットではセルフレジの導入が進み、店舗の省人化に貢献してきました。多くのセルフレジでは、スキャン漏れを防止するために、スキャン前後の買い物カゴの重量を量る仕組みなどが導入されていました。

 それに対してレジゴーの素晴らしい点は、性善説に立って消費者にスキャンする工程を委譲したことです。もちろんレジゴー専用決済エリアでは、抜き打ち検査によるスキャン漏れや未成年者によるアルコールの購入を防ぐために従業員を配置していました。しかし、海外ではスマホの盗難やスキャンせずに商品を持ち出すリスクなどに鑑みて、レジゴーを日本のように導入することは難しいでしょう。

 また、日本でレジゴーが定着するかどうか、さらにシステムやオペレーションが安定するかどうかはまだ分かりません。もしかすると、想定以上の商品が盗まれ、レジゴーの使用は停止されるかもしれません。

 しかし、賞賛すべきは「日本は治安が良いので性善説に立つことができる」という市場特性を生かしてイノベーションにチャレンジしたイオンの風土です。

 これからの時代に生き残るのは、大量生産によるグローバル展開ができる企業ではなく、ローカル市場の特性を生かしたイノベーションを生み出せる企業です。そのためには失敗を繰り返しながらイノベーションにつなげるためのアジャイル仕事術が不可欠です。

アジャイル仕事術』では、働き方をバージョンアップするための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。