自分の存在を認めてもらえば社長でも話を聞いてくれる

――現場の人間が上層部を説得したいとき、耳を傾けてもらってなおかつ前向きに考えてもらうために、できることはありますか?

石川 やはり実績を出している人は有利です。社内で説得力を発揮したければ、なんといっても実績が必要。実績がなければ、ただ「吠えている」だけになりかねません。

 私もリクルートに入社してからの4年間は営業マンだったので、自分の存在を認めてもらうためになりふりかまわず量をこなして、トップの営業成績をだせるよう努力しました。すると、「君が石川くんか」と声をかけてもらえるようになり、ビジネススクールに社費留学させてもらって、希望していた「企画職」に異動することもできました。

 実績を認めてもらったあとは、「自分の価値」を最大化するためのポジションをとったほうがいいです。具体的には、自分の専門性を磨いてほかの人とは違う「特徴」を認めてもらうのです。私の場合、周囲に得意な人がいなかった調査スキルを徹底的に磨いて、存在感を発揮できました。

――たしかに、実績は重要ですね。でも、そのようなポジションを取るだけの専門性を身につけるのは、なかなかハードルが高そうです。

石川 専門スキルを磨くことに限らずとも、競合情報に強いとか、有識者に人脈を持つとか、社長や役員と同じ趣味があれば、「自分も好きなのでぜひご一緒させてください!」とお願いしてみてもいいでしょう。ゴルフでもスポーツでも釣りでも、自分が好きなことをアピールすれば、「おお、そうなのか」と悪い気はしないはずです。

 とにかく、なんらかの方法で「自分の存在」を認めてもらうことが重要です。自分の存在を認めてもらえなければ、どんなに優れたアイデアを提案しても通りにくいです。

「顧客志向」の軸がぶれなければ一致団結できる

――現場の人間が権力を味方につけると、周囲に敵が増える可能性もあるとにありました。そのリスクを回避する方法はありますか。

石川 まず、自分の背後にある権力を周囲が意識していると自覚することです。自分の意見が会議で通りやすくなっても、それは「背後にある権力を恐れて、言いたいことが言えないのかもしれない」「異論が出ないのは、単なる錯覚かもしれない」と思いを馳せることが大事ですね。周りの人の気持ちや態度に無自覚のまま、自分の主張を一方的に通そうとすると恨みを買ってしまいますから。権力を味方につけているときほど、丁寧な合意形成をしなければ禍根を残すでしょう。

 そこで重要になるのは、やっぱり、自分たちがやっていることが会社のためなのか? お客様のためなのか? といった目的を明確にすることです。

 権力を味方につけることで反対勢力を牽制しつつ、私利私欲のためではなく会社の目的合理性にかなったプロジェクトであることを示すことができれば、社内での相互理解ができるはずです。そのように、社内の中でコツコツ味方を増やしていく努力もしなければいけないですね。

「有能なのに結果が出ない人」が軽視しているたった1つの「力」とは?

――その意味では、本書にある「対立関係を協力関係に変える」スキルも同じですね。

石川 そうです。組織というのはどうしても、部門間対立が起きやすい構造になっています。たとえばメーカーだと、厳しい品質管理部門が、他の部署から嫌われることがあります。でも彼らは彼らで、嫌われてでも重視しなければいけない仕事があるわけですね。他の部署もそこを理解してお互いの利害を確認しなければ、中途半端に妥協したり譲歩したりして、ますます問題が深刻化しかねません。

 このとき確認すべき点は、どちらの部門にも共通する「共通の利」です。具体的には、お客様の「利益」は何か? 会社の「利益」は何か? 会社のミッションを実現するための長期的「利益」は何か? の3つを照らし合わせて考え、どの「利」を重視するかお互い納得できる共通項を見つけるまで話し合うのです。

――向かうべき方向が同じだと納得できれば、一致団結できるわけですね。

石川 お客様のためになるものを作りたいという思いは、生産現場も営業現場も大きくずれていることはないはずですよね。どちらかというと、その目的を達成するための体制やシステムに問題があるケースがほとんどです。つまり部門間対立が起きても、必ずしも品質管理部門や営業部門の責任ではないわけです。

 そこで部門を超えたところまで視座を高めて、どういう生産体制だったら今後同じようなトラブルが起きないのか、問題意識を共有することが重要です。場合によっては、担当役員や社長まで巻き込んだ、一番上の視座まで持っていく必要もあるかもしれませんが、そのような形で権力を味方につけられると強いですね。

 どんな話し合いの場でも軸となる目的が「顧客志向」であれば、役員も社長も検討しないわけにはいきませんから、その軸は最後の最後まで貫いてほしい。その意味では「顧客志向」に徹することこそが、本質的な意味での「ディープ・スキル」なのかもしれないですね。

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