ほかの反応もあります。フリーズ状態です。これもある種の動物に備わった生存のためのしくみで、もう逃げられない! という状況に陥ると、脳の指令で全身が仮死状態のようになるのです。なぜか? 死んだふりをすれば、敵がうまいこと立ち去ってくれるかもしれません。ダメだったら、ガブリと噛まれても痛みを感じずに死んでいけるよう、神経のスイッチを切ってしまうのです。

 現代に生きる僕たちにも同じ反応が残っていて、脳の想定と現実とのギャップがあまりに大きくて自分のキャパを超えると、固まってしまいます。日常的な言い方では、頭が真っ白になる、呆然となる、という状態です。

 こうした全身レベルの反応だけでなく、脳が認識したギャップに対して、意味不明、理解不能として否定、無視または拒絶して片づけてしまうことも、よく起きます。相手の話を聞いているようで聞いていないとか、わかりましたといって実は納得していない、などもこの類です。

 これはあまりにも、もったいないことです。

 ギャップには、じつはさまざまな可能性、いいかえれば新しい気づきや変化のきっかけが眠っており、チャンスの兆しともなるのです。そのスタートは、自身の脳について知ることが第一歩と言えるでしょう。

逆境に直面したとき脳のなかはどんな状態?

 逆境に直面したとき、脳の中で重要な箇所が3つあります。扁桃体、海馬、前頭前野です。

「扁桃体」は、恐れ、嫌悪、怒りなどネガティブ感情の中枢です。ギャップが生じた時にこうした感情の信号を出すのです。

「海馬」は記憶の中枢で、ファイリング作業を行っています。数々の短期記憶の中から、長期記憶として保存しておくべきことを選別して、たとえて言うなら「ショックなできごと」「うれしかったこと」といったラベルをつけて参照しやすくします。脳の中でもとりわけストレスなどで傷つきやすい器官でもあります。

「前頭前野」は思考の中枢で、高度な情報処理を行う場所です。扁桃体の信号や海馬の行った作業をもとに、前頭前野がいわば「逆境」認定を行います。「戦うか・逃げるか」などのいわば本能的な反応に「待った!」をかけるのも、前頭前野の働きです。

 逆境に向き合うために、前頭前野を活性化させてあげることも有効です。たとえば「手書きでメモをする」、「新しい出会いを大切にする」、「30分ほどの短い昼寝」、「料理」といった方法がおすすめです。