ひいおじいちゃんのためにアプリを作りたい
まもなく大塚さんの頭に、東海地方に住む曾祖父の顔が浮かんだ。将棋の相手をしてくれる曾祖父を大塚さんは慕っていたという。曾祖父のおかげで将棋の面白さに目覚め、一時期は将棋会館にも通った。
曾祖父の悩みは視力の衰えにより大好きな新聞を満足に読めなくなっていたことだった。白内障を患っていたが、92歳と高齢のため手術もできず、積極的な治療を受けられずにいた。白内障用老眼鏡の上にメガネ型の拡大鏡をかけ、さらに虫眼鏡を使って何とか新聞を読もうと奮闘していたという。
スマホのアプリ版の新聞なら文字を拡大できて読めるのではないかと試してもらったが、設定可能な限界まで拡大しても曾祖父には十分ではなく、小さくて読みづらい上、拡大しすぎると数インチの画面に収まる文字量が減り、どの行のどこの文章を読んでいるのかわかりにくくなるという欠点もあった。
困っているひいおじいちゃんをテクノロジーの力で助けることはできないか。
大塚さんのアイデアは、この問いから膨らんでいった。スマホよりも大きなiPadのようなタブレット端末を使うとして、どこまで文字を拡大できるようにすべきか、誤読を防ぐためにどんなフォントを選ぶべきかなどを検討し、未踏ジュニアへ応募した。
ところが、採択の可否が決まる1週間前、曾祖父が他界。残念ながら大塚さんの思いは宙に浮くことになったが、未踏ジュニアへの申請を取り下げることはなかった。文章を読みたいのに視力が衰えたために読めない人はひいおじいちゃん以外にもたくさんいるのは明らかだったからだ。曾祖母も、祖母も、大塚さんの開発のテスターとなった。
プロジェクトの進め方を学ぶ
2017年6月、大塚さんのアイデアは未踏ジュニアに採択された。早稲田大学大学院生で、本家の未踏事業で優れた成果を上げたことから未踏スーパークリエータ(2013年度)の認定を受けた鈴木遼さんが指導役を担い、開発のイロハを伝授してくれた。
「プログラム開発の途中段階でも他の人にフィードバックをもらって改良し、またフィードバックをもらって改良するというプロジェクトの進め方を鈴木さんに学びました。ひいおじいちゃんは紙の新聞の代わりに画面サイズに限りのある電子端末で読むと、文章中のどこを読んでいるかわからなくなると言っていて、その課題を解決したいと思っていましたので、Tobiiというアイトラッキング装置(視線を追跡し、人がどこを見ているのかを捉える装置)を使って、ユーザーが読んでいる文章にマーカーを引く機能も追加することにしました」
同年10月、大塚さんのアイデアは「らくらく読み読み」というアプリとして形になった。同アプリは高評価を受け、大塚さんは前年にスタートした未踏ジュニア事業で、当時としては最年少の12歳で未踏ジュニアスーパークリエータに認定された。懸案の受験でも中高一貫の渋谷教育学園渋谷中学校への合格を果たした。