なぜ、上場を目指すのか?

 会社という組織は、規模が大きくなってくると、なぜ上場を目指す傾向が強くなるのか。会社にとっての上場メリットは、「資金調達方法の多様化と資金調達力の向上」や「社会的な知名度・信用力の向上」などが挙げられる。会社を飛躍的にステップアップさせるためには資金が必要であり、そのための上場メリットは説明するまでもない。さらには会社の知名度が上がることによる営業上の相乗効果、優秀な人材の確保が社員の士気向上などにもつながり、相対的に企業の成長を促す効果も期待できる。

 一方で社員のメリットを考えると、「会社が潰れにくくなるので将来的に安泰」、「ストックオプションの権利など金銭的インセンティブの獲得」、「社会人として信用度が増す」、といった点が挙げられるだろう。しかし、「これらのメリットを得たいから、自社にはぜひ上場してほしい」と考えるビジネスパーソンが、はたしてどれだけ存在するだろうか? 上場には正の側面だけではなく、上場することで社員の社会的責任が増したり、あるいは社内の規則が厳しくなったり、社内競争が厳しくなったりといったデメリットも見逃してはならない。つまり、上場会社としてふさわしい内部体制であることが求められ、それを気重に感じる社員もいるかもしれない。

それでもマクビーが上場した理由

 マクビーは2015年に産声を上げている。メイン事業はWebマーケティングで、アナリティクスコンサルティングとマーケティングテクノロジーの二つを軸とし、群雄割拠のIT業界でここまで事業を拡大させてきた。特筆すべきは、創業社長である小嶋雄介が、設立当初から上場のビジョンを思い描いていたという点だ。

 ぼくがマクビーに入社したのは、2018年10月のことだった。ぼくはそれまで大手監査法人に所属していて、IPO支援を中心にキャリアを積み上げていた。そんなぼくがマクビーに呼ばれたのは、上場というミッションを達成するためだった。当時のマクビーの社員数は30人程度だったが、それぞれの部署に個性の強い社員がおり、その個性が火花のようにぶつかりあっているような会社だった。悪くいえば「混沌」といった雰囲気の社風であったが、それを補って余りある熱気とチーム感があった。マクビーには、ベンチャーならではの「勢い」が凄まじく備わっていることを感じた。そして同時に、似たようなサービスを提供するほかの企業を寄せ付けない優位性も。

 ぼくは、これまで監査法人でさまざまな企業のIPOに関わってきたが、そのなかでわかったことがある。それは、あらゆる企業にとって上場は決してゴールではないということだ。だが、ひとたび上場すると、まるでゴールテープを切ったかのように株価がピークを示してしまう、いわゆる「上場ゴール」で終わってしまう企業は少なからずある。ただ、マクビーは違う。ぼくは「この会社、おもしろそうだな」と直感し、マクビーの上場をサポートすることを決めた。しかし、入社したはいいものの、予想だにしないトラブルが続くことになるのだった。次回の記事では、マクビーが上場に至る「上場準備」のリアルについて話を続けていこう。