株式投資をする人たちの間で大きな支持を集めている話題の1冊が『株トレ――世界一楽しい「一問一答」株の教科書』だ。60問のクイズを答えていくだけで、「株式投資のコツ」や「株の売買タイミング」がつかめる手軽さが人気だ。「チャートを勉強したけど成果が出ない……」。その原因はどこにあるのか。チャートで稼ぐにはどうすれば良いのか。『株トレ』の著者であり、ファンドマネジャーとして2000億円超もの資金を運用してきた経歴を持つ楽天証券・窪田真之氏に話を聞いた。(取材・構成/伊達直太)
グロース株への投資で最も大事なこと
株は銘柄選びの話に終始することが多いのですが、実際に売買する前には日経平均株価、TOPIX、マザーズ指数などを見て、相場全体の動向を確認することが大事です。
特に東証グロース市場に上場している新興株(以前のマザーズ銘柄)に中には、株価を下支えしてくれるような業績が出ていない赤字の企業も多く、これらの株が一度下がり始めると、とてつもなく大きな下げ幅になってしまうこともあります。
旧マザーズ株を売買するときは、銘柄選択も大切ですが、それ以上に大切なことは「流れに乗る」ことです。マザーズ指数の13週移動平均線が下を向いていている時は、良い銘柄も悪い銘柄も一斉に売られていきます。こういう時には、どんなに頑張って良い銘柄を見つけて投資していても、為す術もなく負けが膨らんでいきます。
反対に、マザーズ指数の13週移動平均線が上を向いている相場では、良い銘柄も悪い銘柄も一斉に上がっていくので、勝てる確率が高くなります。
銘柄選びにのめり込む前に、相場全体の動向やセクターの動向をチャートでしっかり確認することが大事なのです。
市場全体が下がっている時に買いたい銘柄を見つけた場合
マザーズ指数が下がっている相場で、買いたいグロース銘柄が見つかることもあるでしょう。
その場合は「お試し買い」にとどめておくのがいいでしょう。お試し買いしてみて、もし下がったら損切りです。移動平均線を見て、市場全体が上向いたところで本腰を入れて買っていきます。
もちろん、この方法で買うと株価の大底では買えなくなりますが、それは仕方がありません。大底で買えるかどうかは運です。尻尾から頭まで取りたい気持ちはわかりますが、「大底で買えたらラッキー」くらいに考えるのが現実的だと私は思います。
専門家の分析を読む時の注意点
相場やセクターの動向を知るためには、ファンダメンタルズに関するレポートも役に立つでしょう。ただし、そのようなレポートは、アナリストが取材や分析をしてから公開されるので、どうしても「今この瞬間に起きていること」との時間差が生じます。
レポートで「引き続き活況」といった分析結果が公表される頃には、チャートで売りシグナルが出ていることもあるわけです。
そこに時間のズレがあることを理解していない人は、下落トレンドに転換していても、含み損を放置したり、ナンピン買いをしたりしてしまいます。
アナリストの判断よりも、チャートのシグナルの方が信頼できる例として、半導体関連セクターがあります。半導体産業は、ブームと不況を一定の周期で繰り返すことで知られます。このサイクルをシリコンサイクルと呼びます。
アナリストはシリコンサイクルを先読みしようとして、いろいろな予測を述べますが、当たるアナリストはほとんどいません。アナリストが強気のうちにチャートに売りシグナルが出て、おかしいと思っているとそのうちに半導体市況が崩れてきて、やっぱりチャートが正しかったということがよくあります。
2018年は半導体産業が空前のブームに沸いていて、永遠にブームが続くスーパーサイクルに入ったと言われました。ところが2018年に入ってしばらくすると、半導体関連株のチャートにトレンド終盤であらわれる明確な売りシグナルが出ていました。2018年末になると、急速に半導体市況が崩れ始め、いつも通りの循環的な悪化局面に入りました。
チャートは今の値動きを表すもので、相場の変化をいち早く掴めるのが良いところです。特にグロース株のように値動きの荒い銘柄に投資する際は、チャートに従うことが何よりも重要です。チャートを見て、上げ相場から下げ相場への転換を察知したら、追加の買い注文を控えたり、保有銘柄を整理したりする必要があるでしょう。
また、信用取引口座を持っている場合は空売りを検討することもできます。
空売りは、売った銘柄が青天井で急騰するリスクがあるため、よりシビアに損切りする必要がありますが、シグナルを見て順張りで売買する点は、現物取引と同じです。強い買いシグナルで買うのと同じで、強い売りシグナルで売れば良いわけです。
買いも売りも両方できるようになれば選択肢が増えます。一流のサッカー選手が右でも左でも蹴れるのと同じで、株も売買両方できるようになると稼げる機会が増えます。
売買する前に、チャートをひっくり返して客観的になってください
私はチャートをひっくり返して見ることをおすすめしています。冷静かつ客観的にチャートを見ることができます。
チャートを上下逆さにひっくり返して見ると、「売りシグナルは買いシグナル」に、「買いシグナルは売りシグナル」になりますね。
買いシグナルが出ていると思ったチャートを上下逆さに見た時に、売りシグナルが出ていると見えれば、冷静な判断ができているわけです。ひっくり返しても売りに見えないならば、ひっくり返す前のチャートは買いでなかったことになります。あなたが「強気バイアス」にとらわれていて買いだと思ってしまっただけ、ということになります。