本質的な少子化対策には
どんな取り組みが必要なのか

「異次元の少子化対策」はアベノミクスと同様の対症療法にすぎないと言い切れる理由本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 まず、「103万円の壁」をはじめとするボーダーラインの改革だ。妻が夫の扶養に入っている世帯では、妻の収入が103万円を超えると、所得税の支払い義務が発生して負担が重くなる。

 他にも、年収が130万円を超えると扶養から外れる「130万円の壁」など、配偶者控除や社会保険の仕組みにはさまざまな“壁”が存在する。

 だが、これらの制度は女性の労働意欲を阻害している側面がある。女性の社会進出が進む時代に適した制度だともいえない。これらのボーダーラインを見直し、“壁”のあり方を変えれば、夫婦の経済的な余裕につながり、有効な少子化対策になるのではないか。

 次は、「日本型雇用システム」の改革だ。厚生労働省は現在、「くるみん認定」「えるぼし認定」といった認定制度を設け、女性活躍や育児支援に力を入れている企業に助成金を給付するなどの優遇措置を実施している。

 だが繰り返しになるが、日本では女性の非正規雇用者が多く、少子化が進んでいるのが現状であり、両制度が飛躍的な効果を生んでいるとはいえない。効果をさらに高める上では、助成金給付の対象となる企業を広げたり、給付金額を手厚くしたりといったテコ入れが必要ではないだろうか。

 最後は、共働き世帯を支援する体制の改革だ。その上で最も重要になるのは、「保育園の待機児童問題」の完全な解消だろう(第128回)。保育園の建設増、保育士の人数増、その待遇の改善などの政策に、最優先に予算を付ける必要がある。

 その上では、現在の「出入国管理法」のスキームを超えて移民を拡大し、保育・家事に携わる人材を確保するという選択肢も検討すべきだ(第200回)。

 具体的には、共働き夫婦をサポートし、子育て・家事を行うベビーシッターやハウスキーパーを海外から受け入れる。上海など中国本土の大都市や、香港、台湾、シンガポールなどで行われている、共働き夫婦のキャリア形成を支援するモデルを日本に導入するのだ。

 移民の受け入れには批判が根強い。だが、リスク防止策も含めて政府は従来の発想を変える政策を打ち出す必要がある。

 私が挙げた「ファミリーの所得倍増計画」は一例にすぎないが、日本政府はこれらに匹敵するような抜本的な改革がなければ、少子化の改善は見込めず、衰退の一途をたどることになるだろう。

 今の日本には何が必要なのか、歴史、伝統、文化、そして思想信条の違いを超えて、国民全体で議論していくべきではないだろうか。