アウディとフォルクスワーゲンのEVは
同じVWグループでもブランドの世界観は違う
3台目のアウディ「Q4 e-tron Sline」と4台目のフォルクスワーゲン(VW)「ID.4」は、同じVWグループのEVプラットフォームとして、部品の共通性が大きい。
だが、2モデルの走り味、インテリア、そして世界観は、はっきりと違う。
その背景を知るため、少しだけ時計の針を戻す。
10年代半ばにVWの燃費不正問題が大きな社会問題となった。そこからのV字回復を狙ったVWグループの中長期戦略の中核が、EVシフトだった。それに伴い、大きな投資を明言したにもかかわらず、EVシフトに対して日系や米系メーカーはもとより、他の独メーカーも懐疑的だったと、筆者は記憶している。
それでも、ポルシェを筆頭に、VWグループはEVシフトのイメージを、大衆向けブランドであるVW IDシリーズの多モデル化で進めた。
さらに、アウディ、スペインのセアト、チェコのシュコダなどで、ブランドそれぞれに世界観をEVシフトによって再構築する大変革に着手した。
こうしたVWグループのEVシフトと同調するかのように、欧州連合(EU)の執務機関である欧州委員会(EC)の欧州グリーンディールを基盤として、欧州を起点とする政治主導でのEVシフトが一気に加速した。その流れが世界に広がって、日本でのEVシフトにも大きな影響を与えている。
話を試乗に戻すと、アウディ「Q4 e-tron」は、スポーティーなS lineであったことを差し引いても、とにかくクルマとしての一体感が強い。いわゆる「人馬一体」といえるほどの見事な出来栄えだ。昨年、アウディジャパン関連のイベントでアウディ各種EVモデルにじっくり乗ったのだが、リアモーターをベースとする「Q4 e-tron」は明らかにアウディ次世代EVモデルだと言い切れるほど、アウディらしさに満ちている。
一方、VW「ID.4」のハンドリングと乗り心地はマイルドだ。ただし、先に紹介したBYD「ATTO 3」のマイルドさとは全く違う。EVの骨格が強く、それをVWがEVで目指す「世界観」にアジャストしているというイメージである。
そして、5台目は「モデルY」だ。
テスラの世界観については、「モデルS」「モデルX」そして「モデル3」を通じて、さまざまなメディアですでに数多く紹介されている。また、日本でもテスラオーナーは増えてきており、オーナー自身がSNSでさまざまな情報発信を行っている状況だ。
一方で、筆者は00年代のテスラ立ち上げ時期から、アメリカで同社の成長を定常的に取材してきた。
その上で感じるのは、直近に製造された「モデル3」と「モデルY」は、乗り心地が改善され、またハンドリングのしっかり感も増した印象があり、EVらしさがさらに際立ってきた。このEVらしさは、今回比較した各ブランドや、日系各社のEVモデルとも違う。
テスラはEV専業メーカーとして、過去に例のない生産・販売規模に達していま、クルマ本体からテスラの世界観をしっかりとユーザーに伝えるようになったと感じる。
以上、今回試乗した5モデルをブランドの世界観として比較してみた。
EVでは当面、価格競争は起きないが
日本では軽EVの普及が徐々に進む
最後に、今後のEV普及の全体動向について触れる。
欧米日韓中の自動車メーカーは、400万~700万円の価格帯で、それぞれのブランドの中核モデルを拡充させていくだろう。
各社はあえて無理な形での価格競争は望まないはずだ。なぜならば、まだまだ電池のコストが下がる気配が見えてこないからだ。
電池の量産効果が生まれ、また次世代電池技術が確立されるまでは、EVシフトに向けたブランド戦略を確立することに、各社は注力するだろう。
また、日本市場では、商用と乗用のそれぞれで、軽EVの普及が徐々に進むが、軽市場全体が一気にEVシフトするには相当な時間を要するはずだ。軽自動車が地方部や中山間地域での「生活車」であるため、一気にシフトするとは考えにくいからだ。
いずれにしても、日本におけるEVシフトが着々と進むことは間違いない。