こうしたことにならないために、第一に大切なのは、横暴な上司にありがちな心理メカニズムをしっかり理解し、上司の心理状態に想像力を働かせることである。相手がなぜそんなふうなのかが想像できれば、いくら理不尽な相手でも、「まあ、そういう事情なら仕方ないか。少し大目に見てやろうか」と、上から目線になって許す気持ちが湧いてくるものである。

 第二に大切なのは、イライラしがちな自分自身の心理メカニズムにも目を向けることである。同じ上司のもとで仕事をしている人は他にもいるのに、なぜ自分はキレそうなまでにイラつくのか。そこに目を向ければ、自分の心の状態を整えることで、あまりイライラしないで済むようになるはずである。

人は欲求不満が生じると攻撃的になる

 何かにつけて攻撃的な態度を示す人の心理を理解しようとする際に有用なのが、心理学者ダラードたちが唱えた「欲求不満-攻撃仮説」である。欲求不満になると攻撃衝動が込み上げてくるという説だ。

 このことを証明する代表的な実験として、喫煙者に欲求不満を与えることで攻撃的になるかどうかを確かめるものがある。それは、つぎのような実験である。

 ワン・ウェイ・ミラーの向こう側に生徒役の人物(サクラ=実験協力者)がいる。教師役の人物が課題を与え、間違えると、こちら側のスイッチを用いて電気ショックを与える。実際に電気ショックを与えるのは倫理的な問題があるので、スイッチが押されると生徒役のサクラが痛がる演技をするように仕組まれている。実験を受ける人物は、自分がほんとうに電気ショックを与え、生徒役の人物がほんとうに苦しんでいると思い込んでいる。

 この実験の合間に休憩時間が取られるが、その休憩時間中は禁煙とする。喫煙者は、休憩時間に喫煙を禁じられるため、欲求不満状態に置かれることになる。その後、実験が再開され、生徒役に対する電気ショックの与え方に、休憩の前後で変化が生じるかどうかを確かめるのである。

 その結果、非喫煙者では休憩前後で変化はみられなかったが、喫煙者では休憩後の方が電気ショックを与える量が明らかに増加した。これは攻撃衝動が高まった証拠と言える。禁煙による欲求不満が攻撃衝動を高め、電気ショックを余計に与えるという形の攻撃行動を促したのだ。