メールや文書、プレゼン……自分の伝えたいことを言葉にするのは難しい、と思うことはないだろうか。仕事でも日常生活でもSNSやメールでの「言葉」のやりとりが中心となっている現在、「自分の言いたいことをうまく伝えられない」という悩みを持つ人も多い。そんな人にぜひ読んでほしいのが、2023年2月15日発売になった『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(坂本和加著)だ。著者の坂本氏は「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」など数々の名コピー、ネーミングを生み出している。本書では、坂本氏が20年以上のキャリアで身につけた、「短い言葉で端的に表現する」ための思考法、技術を余すところなく紹介。今回は本書の発売を記念して特別に一部内容を再編集、抜粋して紹介する。
「スルーされない言葉」にするには?
「一番言いたいこと」を、相手に深く伝わる短い言葉にする。
そのために最初に取りかかるのは、自分と相手の「共通項」を探すことです。
何か売りたい、宣伝したいものがある場合、その売りたいものと生活者(世の中)の間で「共通していること=同じこと」を探していきます。
この共通項がないと、自分ごとにしてもらえず、「私には関係ない話だな」とあっさりスルーされてしまいます。
「旅行に行こう」をどう表現するか?
ここで私が携わったキャンペーンの事例を紹介します。
JR東日本のキャンペーンでは、「列車で旅する東北っていいよね」をさまざまな手法で10年かけて伝えていきました。
JR東日本に寄り添いすぎると「列車はいい、最高!」という話になってしまう。生活者にだけ寄り添うなら「旅はいい」でしかありません。
その橋渡しをする考え方が「列車で旅する東北っていいよね」。
この考え方を「ひとこと化」したのが、「行くぜ、東北。」です。
JR東日本がもっとも言いたいのは、新幹線に乗ってください、ということ。
それだけでは、生活者の「なんで?」には応えられません。
世の中は2011年の震災後で、東北を心配する雰囲気もありましたが、年の暮れに近くなると、「復興を応援したい」という気運に満ちていました。
そんな時代背景を考えると、「東北を旅しよう」というスローガンではあまりにも呑気すぎます。
「行こう、東北」では強さが足りません。そこで「行くぜ、東北。」となりました。
「アクション」や「心意気」がひとことで見えるように設計された言葉です。
3つの案は意味が同じ。けれど時代性をはらんでいるのは、「行くぜ、東北。」だけでした。
言葉のプロの頭の中にある「2つの目線」
橋渡しをする考え方は、「共通項=同じものを見つける」ということです。
共通項は物事を大きく捉える、大きな視野で俯瞰する、まるで森を見つめるように物事を捉えていかないと見えてきません。
私の頭の中では、いつも「細やかな生活者の目線」と「世の中全体を捉える大きな目線」、この2つの目線を行ったりきたりしています。
(*本稿は『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』より一部抜粋、再編集したものです)
合同会社コトリ社代表
文案家(コピーライター)/クリエイティブディレクター
大学を卒業後、就職氷河期に貿易商社へ入社。幼少期から「書くことを仕事にしたい」という漠然とした思いがあり、1998年にコピーライターに転職。最初の2年は150字程度のPR文をひたすら作成していたが、まったく書けなくて徹夜の日々。「キャッチコピーらしいコピーを書きたい」という思いが芽生え、数社の広告制作会社を経て、2003年に一倉広告制作所に就職。師匠である一倉宏氏に「お前のコピーは長い」「頭で書くな」と言われながら、「ほんとうに伝えたいこと、伝えるべきことはなんなのか」を深掘りすることで、だんだんと「短く、深いコピー」が書けるようになった。2016年に独立し、現在は合同会社コトリ社代表。
本業に加えて、自身のキャリアを通して身につけた「ひとこと化」の考え方、技術はどんな人にも役立つと考え、32歳のときから、企業・学校団体向けにコピーライティング技術を用いたワークショップを行っている。本書では、その「ひとこと化」の考え方・技術を余すところなく紹介。主な仕事に、「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」「イット!」「健康にアイデアを」「こくご、さんすう、りか、せかい。」などがある。受賞歴に毎日広告デザイン賞最高賞ほか多数。著書に『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(ダイヤモンド社)、『あしたは80パーセント晴れでしょう』(リトルモア)ほか。東京コピーライターズクラブ会員。日本ネーミング協会会員。