入浴時にはない
トイレゆえのリスク

 先述のような入浴時の寒暖差リスクはかなり知られるようになったため、すでに対策をしている人もいるかもしれない。しかし野田氏によると、家の中にはもう1カ所注意してほしいスポットがあるそう。

「もうひとつのスポットはトイレ。トイレも浴室同様、北側に面していることが多いため、個室の室温も低く、肌も露出するのでショックを起こしやすい場所です。また、トイレにはそれ以外にも“意識消失リスク”が潜んでいます。トイレで排便や排尿をすると、それまで我慢していた緊張が緩み、副交感神経が優位になります。副交感神経が優位になると血管が拡張するため、血圧が急激に下がり、脳に送る血液量も減って意識を失ってしまうんです。これは『迷走神経反射』と呼ばれる症状です」

 寒暖差だけでなく、排せつ行為も血圧に影響を与えているのだ。高齢者施設などでは入居者がトイレで意識を失うケースが多いため、注意すべき場所として認知されているという。

「迷走神経反射やヒートショックで気を失っても、ごく短時間で意識が戻ります。ただ、意識が戻っても一定時間は横になって、安静にしてください。もし、何度も意識消失を繰り返す場合は、重篤な疾患が隠れている可能性があるので、医療機関を受診しましょう」

 また、気を失うほどではなく、立ちくらみを感じただけであっても、ヒートショックや迷走神経反射が血管に負担をかけているのは確か。そのため「立ちくらみ程度」と甘く見ず、対策するのが望ましいという。

「迷走神経反射は、精神的なストレスや本人の性格に起因するので、予防は難しいですが、“自分はトイレで立ちくらみをしやすい”と自覚すると不安が和らぐかもしれません。一方、トイレでのヒートショックを防ぐには、体が感じる寒暖差を小さくする必要があります。とはいえ、トイレを常に暖めておくわけにもいかないので“人感センサー付きヒーター”を入れて、個室に入ったタイミングで暖めるようにするのがおすすめです」

 そのほか、夜中に目が醒めてトイレに行く際は、上着を一枚羽織ったり、スリッパを履いたりするのがベター。暖かい布団を出て寒い廊下やトイレまで歩く際も、寒さを感じにくくする工夫をしよう。