医師もアプローチを考え、コミュニケーション技術を磨こう

浅生:山本先生も最初に、病院に来る人はその時点である程度会話が成立している、問題は病院に来ない人や来なくなった人だ、とおっしゃいましたが、そういう人たちにどうアプローチし、言い分をどう聞くのか。それが僕たちの活動が今後考えていかなくてはいけないポイントなのでしょうね。

山本:そうですね。今、和尚がカウンセリング手法にもいろいろあるとおっしゃいましたが、僕らもまずはどう話を聞くかを考えなきゃいけない。対象となるのは、はなから病院に来ない人ではなく、その少し手前の予備軍の方たちです。

 これまでの医者はエビデンスをかざし、正論で真正面からぶつかっていた。それよりも「どうして抗がん剤治療を受けたくないと思われるんですか」とまずは聞いてみる。そうすれば、「家族に迷惑をかけたくないから、通院頻度が増える抗がん剤治療は嫌なんだ」とか「仲の良い友達から勧められたことだから断りたくない」といった、その方の背景や抱えている悩みが見えることがあるんです。我々はまず病院の中でそうしたアプローチを取れるようにならなきゃいけない。病院の外の状況をどうしようかというのは次の段階なんだろうな、と。

分断解消への第一歩は、受信力を磨くこと

山本:今日我々はそんなふうに医者の立場で何ができるかをずっと話していたわけですが、セッションを見てくださっている皆さんも、自分が当事者ならどうすればいいんだろう、とぜひ考えていただきたいです。自分が抗がん剤を嫌だと思ったとして、その背景にどんな思いがあるのかには自ら気づいていない可能性もあるので。

浅生:自分でわかってない。

山本:だとしたら、医者はなおのことわからない可能性が高い。なんで自分は嫌なんだろう、なぜこのサプリがいいと思ってるんだろうと脳内を整理してみると、背景にある不安や不信感が浮かび上がってくるかもしれない。そのレベルから医師に伝えるというのがいいのではないかと思うんです。

浅生:SNSというと発信ばかり注目されがちですが、受信をどこまでちゃんとやるか。発信された言葉の意図をちゃんと見抜いてあげる受信力が、今後は大事になってくるとも感じました。というところで時間が来てしまいましたので、お開きにいたします。どうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

浅生鴨(あそう・かも)
作家、広告プランナー。1971年、神戸市生まれ。たいていのことは苦手。ゲーム、レコード、デザイン、広告、演劇、イベント、放送などさまざまな業界・職種を経た後、現在は執筆活動を中心に、広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手掛けている。主な著書に、『中の人などいない』『アグニオン』『二・二六』(新潮社)、『猫たちの色メガネ』(KADOKAWA)、『伴走者』(講談社)、『どこでもない場所』(左右社)、『だから僕は、ググらない』(大和出版)、『雑文御免』『うっかり失敬』(ネコノス)、近年、同人活動もはじめ『異人と同人』『雨は五分後にやんで』などを展開中。座右の銘は「棚からぼた餅」。最新作は『あざらしのひと』(ネコノス) 、『ぼくらは嘘でつながっている。』(ダイヤモンド社)など。
山本健人(やまもと・たけひと)
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学) 外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は開設3年で1000万ページビューを超える。Yahoo!ニュース個人、時事メディカルなどのウェブメディアで定期連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー10万人超。著書に17万部突破のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』『がんと癌は違います~知っているようで知らない医学の言葉55』(以上、幻冬舎)、『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』(KADOKAWA)、『もったいない患者対応』(じほう)ほか多数。
Twitterアカウント https://twitter.com/keiyou30
公式サイト https://keiyouwhite.com
大塚篤司(おおつか・あつし)
近畿大学 医学部皮膚科学教室 主任教授。1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。2021年4月より現職。皮膚科専門医。がん治療認定医。アレルギー専門医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、AERA dot.・京都新聞「現代のことば」連載をはじめ、コラムニストとしても活躍。著書に『最新医学で一番正しいアトピーの治し方』(ダイヤモンド社)『教えて!マジカルドクター病気のこと、お医者さんのこと』(丸善出版)『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版)がある。
吉村 昇洋(よしむら・しょうよう)
曹洞宗八屋山普門寺副住職。公認心理師/臨床心理士。相愛大学 非常勤講師。1977年3月、広島県生まれ。仏教学修士を取得後、永平寺にて修行。その後、臨床心理学修士を取得し、現在は心理臨床家として地元の精神病院に勤務。その傍ら、禅と臨床心理学、マインドフルネス、禅の掃除、精進料理、仏教マンガなど、多岐にわたる分野の研究、執筆、講演を行う。近著に『心とくらしが整う禅の教え』(オレンジページ)、『精進料理考』(春秋社)など。
堀向健太(ほりむかい・けんた)
小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10〜20本寄稿しつつTwitter(フォロワー10万人)、Instagram(2.3万人)、音声メディアVoicy(5000人)などで情報発信。
たられば(編集者)
古典文学から漫画や政治問題まで、さまざまなツイートで人気を得ており、フォロワー数は20万人を超える。本業は編集者。
西 智弘(にし・ともひろ)
川崎市立井田病院 腫瘍内科 部長。一般社団法人プラスケア代表理事。2005年北海道大学卒。室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、2007年から川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修。2012年から現職。現在は抗がん剤治療を中心に、緩和ケアチームや在宅診療にも関わる。また一方で、一般社団法人プラスケアを2017年に立ち上げ代表理事に就任。「暮らしの保健室」「社会的処方研究所」の運営を中心に、地域での活動に取り組む。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。著書に『だから、もう眠らせてほしい(晶文社)』『社会的処方(学芸出版社)』などがある。
市原 真(いちはら・しん)
1978年生まれ。医師、博士(医学)。病理専門医・研修指導医、臨床検査管理医、細胞診専門医。Twitter: 病理医ヤンデル (@Dr_yandel)。著書に『Dr.ヤンデルの病院選び ヤムリエの作法』(丸善出版)、『病理医ヤンデル先生の医者・病院・病気のリアル』(だいわ文庫)、『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)、『ヤンデル先生のようこそ! 病理医の日常へ 』(清流出版)、『まちカドかがく』(ネコノス)ほか。

(※本原稿は、2022年8月20日、21日に開催されたオンライン配信を元に記事化したものです)