「大丈夫だ」と言ってほしい
浅生:医者も患者も目指すところは同じなんですよね。病気を治したい、治らないにしてもできるだけ健康でありたいという目標は同じなのに、うまくいかない。医者の言うことも患者の気持ちもわかるから、はたから見ていて、いつももどかしくなります。患者の気持ち自体を聞いてあげることが大事なのでしょうね。それは医療というよりむしろ宗教の仕事なのかもしれませんが。
吉村:患者さんは、「100%大丈夫だ」と言ってもらいたいんですよ。「93%大丈夫ですよ」ではダメなんです。しかし科学的には100%大丈夫だとは言えない。ここなんですよね。宗教者は100%大丈夫だと無責任に言いますから、それで良くなる人もいます。宗教という大きなものに寄りかかることで心が楽になって好転することは実際にある。
個人的には、先生方がされているような「93%は大丈夫だけど、そうならない可能性もあります」といった提示の仕方のほうが誠実だとは思います。ただその場合には、「救われたい自分」をいかにフォローしてやれるかが重要になってくる。
大塚:僕は、医者も「大丈夫」と言っていいんじゃないかと思うときがあって。医者から見てこの状況はたぶん大丈夫だけど、科学的に100%はあり得ないから保険をかけて大丈夫とは言わない、というようなとき、ありますよね? そういうとき、「人間の体だから何が起きるかわからないけれど、経験やデータに照らし合わせてたぶん大丈夫だと思う」という個人的見解は、患者さんに伝えてもいいと思うんです。
浅生:医療関係者もいろいろですが、僕の経験上、整形外科医は大丈夫って気軽に言いますね。「大丈夫、大丈夫、治る治る」って。
一同:(笑)
溝を深めてしまう苦しさ
堀向:新型コロナのワクチン接種をめぐって感じたことがあります。集団接種の初めの頃、接種を受けにおいでになった方は、接種そのものを強い否定的な気持ちをおっしゃる方は少なかったのです。しかし、後半になるにつれ、注射恐怖症というぐらい注射が嫌いな方たちを見かけることが増えたのです。『注射恐怖症』には研究があって、幼い頃、親や医者に「痛くないよー」と言いながら痛い注射を打たれた経験があるなど、何らかの形で医療不信を抱えている方たちが多いのではないかと考えられています。
ステロイドを強く避ける方も、おそらくどこかで裏切られたという経験をお持ちなのかもしれません。そのような同じような背景があるのかもしれないと考えるようになりました。
医療不信を抱く人たちに一方的に話をすれば反発されるのは当たり前です。でも、時間も限られています。今のように患者数が急増している場合、1人のワクチン投与にかけられる時間は数分、話を聞いている暇はないわけです。こうして溝がさらに深まっていくのかもしれません。
僕自身が、その繰り返しをしているような気がして、第7波が始まってからというもの、苦しくてたまらないんです。ここでお話しする資格はないなあと思いながらみなさんのお話を聞き、勉強している感じです。