分断が生まれていると思っているのは僕らだけ

浅生:『SNS医療のカタチ』の取り組みは、コミュニケーションエラーをなくし、誤った医療情報に触れる人を減らそうというところから始まっているから、誤った医療情報に触れる人たちとはやっぱり議論が成立しないのかもしれない。だとしたら、先ほどから話に出ている、別のチャンネルでまずはつながり、共通項を見つけるというのがよい気がします。市原先生はよくそういうことをされていますよね。

市原真(以下、市原):そうですね。でも考えてみると、「分断」と言っているのは実は医療者側だけなんですよ。急進的なことを言う人やエビデンスに反することを強硬に推す方は、自分たちが正しいと確信していることにみんなを集めたいので、分断という言葉は決して使いません。我々だけが「これは分断だ、どうにか埋めたい」と目を充血させながら頑張って、うまくいかずにストレスを溜めているんですよ。

 「分断が生まれていると思っているのは僕らだけだ」という感覚は、みんなもう少し持つべきです。余計なお世話と思っている人もきっといる。がん患者が標準治療を拒否するのはその人の生き方としてなら許容できるかもしれませんが、公衆衛生の場合はつい、分断はダメだと我々は言ってしまう。

 でも、エビデンスが示しているだろうと一方的に言っても違うOSの入っている人たちには届かない、もっと別のやり方を探すべきですよね。

手法はいろいろある

浅生:昇洋さんはスクールカウンセリングはされていませんが、普段の活動の中で、「この人とは別の話題で話そう、という経験はありますか?

吉村:カウンセリング現場では、毎回ずっとのらりくらりと話していて、そろそろ時間だというところで「実はね」と中核の話を始めたりする患者さんに出会います。もっと話を聞いてほしいということなのでしょうし、沈黙に寄り添うことは必要なのですが、そればかりだと前に進まないので、他の手法をとります。

 例えば、動機づけ面接(モチベーショナルインタビュー)という認知行動療法の手法でこちらが主導権を握るとか。うまく言葉にまとめられない方には、本人が違和感を感じていることをピンポイントで攻め、語らせる中で整理をつけていただくこともします。いろんな方法がありますね。