それでもESGを推進すべき理由
ESGが必ずしも短期的な株価上昇という実を結ばなくても、上場企業、ひいては非上場企業も、ESG推進の手綱を緩めることは許されない。上述した企業競争のゲームチェンジがその理由だ。
具体的には、資金調達、人材採用、国際取引(調達、輸出)、企業買収など、全てのグローバルな企業取引への参加資格として、「ESG推進」の証書が必要な時代になってきている。国際外交におけるプロトコル(外交儀礼)と言い換えてもよい。
ここで言うESG推進の証書とは、国際的なNGO団体が規定するフレームワークでの情報開示(例:TCFD)や質問票への回答(例:CDP)、それらを包含した統合報告書、さらには上述したようなESG銘柄指数構成銘柄への採用などを指す。
ESG推進の責任を果たさない企業は、国際的な経済活動の枠組みから追放されかねない。国内企業間の取引、未上場企業との取引であっても、サプライチェーンが海外企業や上場企業につながっていれば、その影響を避けることはできないのだ。
ESG推進によるプラグマティックな経営課題の中でも、近年特に注目されているのが人的資本経営であり、端的には、人材採用戦略であるZ世代(おおむね現在の20歳代)と呼ばれる若年層は、それ以前の世代と比べて、仕事や企業の選択の際に、社会的意義を重視する傾向が強い。
Z世代の優秀な人材は、GAFAM(米国の巨大IT企業5社)のようなグローバル企業やスタートアップ(自ら起業する選択肢も含む)が受け皿となっており、伝統的な日本企業はいまや、人材獲得競争におけるチャレンジャーだ。
ESG推進は短期的な株価上昇につながらないかもしれないが、国際的な企業取引の参加証書にしてプロトコルであり、企業経営の足腰を鍛えるための有効なツールでもある。ESG経営の実践でいかに企業を強くするか。この論点については、次回記事で詳述する。
(フロンティア・マネジメント マネージング・ディレクター 企業価値戦略部長 山手剛人)