意思決定は結果論ではなく
「事前」がベース
筆者が、がん保険に加入していたらどうだっただろうか。例えば、癌と診断を受けた時に50万円とか100万円といった一時金をもらえるケースもあるだろうし、入院一日当たり1万円とか2万円といった保険金も大いに助けになったはずだ。
筆者の場合も、癌にかかることが前から分かっていたなら、何らかのがん保険に入っておいた方が金銭的に「得」だった可能性は大きい。
しかし、がん保険に加入するか否かの意思決定は、自分が将来癌にかかるかどうかが分からない「事前の」時点で行うものだ。かつての筆者にとってもそうだったし、多くの読者にとってもそうあるべきだ。
筆者が思うに、特定の結果の損得と、確率を考えた「事前の」損得を区別して、後者のロジックに従って判断できるかどうかが、経済的に正しい意思決定ができるか否か、いわゆる「カモになるか否か」の一つの大きな分岐点だ。せっかく人間に生まれて、多少なりとも確率の概念が分かるのなら、正しく考えたいものだ。
ここで、しゃくし定規に真面目な人なら、将来自分が癌にかかる確率、その場合に支払われる保険金の予想額などを考え、他方の保険料負担と、保険料を他の運用に回した場合の期待リターンなどを考慮して、損得の期待値を計算するのかもしれないが、これは賢くない。本気でやるなら人生の時間の浪費だ。
保険会社が商品設計の際の計算に失敗しない限り、がん保険の条件は保険会社が十分利益を期待できる水準に設定されていて、加入者側にとって損であるに決まっている。なぜなら、平均的に加入者が得をするのであれば、原理的に保険会社はつぶれてしまうからだ。そして、商品としてのがん保険は長年にわたって継続しており、保険会社はもうかっているし、保険を売るための熱心なセールスの努力が続いている。推測の根拠は十分だ。
損得の点に関しては、営利会社であり保険の専門家でもある保険会社を大いに信用していいはずだ。「大人の経済常識」を働かせた判断として、確率と期待値を考えた損得の問題として、保険会社がもうかっているなら、加入者は損をしていると考えて間違いない。