「がん保険には入らない」
という結論を何度でも出すだろう

 従って、仮に筆者が30代、40代の時分に戻って、将来癌にかかるかどうか分からない時点でがん保険の加入について検討するなら、「がん保険には入らない」という結論を、自信を持って出すはずだ。

 なぜなら、がん保険に入ることが確率を考えると大幅に損である一方、万一癌にかかっても自分の手元のお金で十分対処できるからだ。この意思決定に不安はない。そして、この種の架空の状況の繰り返しが何度も可能であるとすれば、何度でもそうするだろう。

 ただし、架空の人生のうち、何度かに一度は癌にかかって何らかの治療費を自己負担することになるに違いない。しかし、架空の人生を何度も通算すると、保険に加入しない方が大いに得になっているはずだ。

 保険はお金の問題だ。感情を交えずに損得と必要性の有無で判断したい。

 例えば、通院には交通費が掛かるが、この交通費をがん保険が支給してくれると嬉しいといった声がある。結果論として、嬉しかったり、助かったりする場合があるのはその通りだろう。しかし、保険会社は交通費を支払うような保険の場合に、交通費の発生確率や期待値も計算して保険料を設定しているはずだ。

 また、そもそもがん保険に入る動機の小さくない部分が、癌にかかることへの不安の感情だろう。冷静に考えると、がん保険に入っても癌に罹患(りかん)する確率は少しも小さくならないのだが、不安な問題に何らかの対処を行ったということが、精神的な満足感につながることがある。率直に言ってこの満足感は賢くないし、賢くないことが我慢できても相当に高く付く。

 保険一般として、利用の判断基準は、「損か、得か?」ではなく、「損だけれども、必要か?」であるべきだ。保険の専門家ほど、これが当たり前だと思っているはずだ。

 自動車を運転する際の自賠責保険のように、平均的に損ではあろうけれども必要な保険というものはある。

 他方、がん保険は、それ自体が損であることと同時に、がん保険がなくても治療費の支払いに心配はないので不要である。

 これは、筆者の状況での判断だが、意思決定に影響を与える要素が筆者と同様の方は少なくないはずだ。ご参考になれば幸いだ。

 読者ご自身の場合はどうなのか。ご判断は読者にお任せする。